・・・あれを刈りに行くものは、腰に火縄を提げ、それを蚊遣りの代わりとし、襲い来る無数の藪蚊と戦いながら、高い崖の上に生えているのを下から刈り取って来るという。あれは熊笹というやつか。見たばかりでも恐ろしげに、幅広で鋭くとがったあの笹の葉は忘れ難い・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・次にチョッキの隠袋から、何か小さなものを出して、火縄でそれに点火したのを、手早く筒口から投げ入れると、半秒足らずくらいの後に、爆然と煙が迸り出て、鈍い爆音が聞える。煙が綺麗な渦の環になってフワフワと上がって行く、すると高い所で弾が爆発して、・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・加藤家の討手に備えるために、鉄砲に玉をこめ、火縄に火をつけて持たせて退いた。それを三斎が豊前で千石に召し抱えた。この吉兵衛に五人の男子があった。長男はやはり吉兵衛と名のったが、のち剃髪して八隅見山といった。二男は七郎右衛門、三男は次郎太夫、・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫