・・・ そうした田舎の塵塚に朽ちかかっている祖先の遺物の中から新しい生命の種子を拾い出す事が、為政者や思想家の当面の仕事ではあるまいかという気もする。 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・しかしこの病原を突きとめて適当な治療を加えることの出来るような教育者や為政者は古来稀である。 喧嘩ばかりしていて、とうとうおしまいに別れてしまう夫婦がある。聞いてみると到底性格が一致せぬからだという。しかしよくよく詮議してみるとやはり貧・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・この知事のような為政者は今でも捜せばいくらでも見つかりそうな気がするのである。 少なくも、むやみに扁桃腺を抜きたがる医者は今でもいくらもいるであろう。 十八 近年の統計によると警視庁管内における自殺者の数が著・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ところが困った事にはそういう罪人をつかまえる為政者の方でもちゃんとそれを承知しているから、あらかじめ犬の糞を用意しておいて、すぐにそれを食わせ、そうしてすっかり毒を吐き出させてしまう。これではせっかくの毒も何の役にも立たなくて、結局犬の糞を・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
・・・陛下の御歌は実に為政者の金誡である。「浅しとてせけばあふるゝ」せけばあふるる、実にその通りである。もし当局者が無暗に堰かなかったならば、数年前の日比谷焼打事件はなかったであろう。もし政府が神経質で依怙地になって社会主義者を堰かなかったならば・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・しかしながら為政者のなす所を見るに、酒と烟草とには税を課してこれを人に買わせている。法律は無益の行動を禁じていない。繁殖を目的とせざる繁殖の行為には徴税がない。人生徒事の多きが中に、避姙と読書との二事は、飲酒と喫烟とに比して頗廉価である。避・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・ 幾百年の過去から、恐ろしい伝統、宿命を脱し切れずにいる、所謂為政者等は、彼等の人間的真情の枯渇に、何かの弁明を見出すかもしれない。けれども、私共、平の人間、真心を以て人間の生活、真の人生と云うものを掴握しようとする者が、互に生きている・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・同じ紙面に他の数人の見解もあわせのせられていて、他の人々の意見は、事変以来為政者が娯楽というもの一般について罪悪視して来たために、人心が飢渇していて、ああいう事も起ったのではないのかという点で、一致した反省を求めているのであった。 二月・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・過激思想ももちろんその中に含まれているであろうが、過激思想を退治しようとしている為政者の言行といえどもまたその中に含まれていないのではない。利のために働かず、任務自身のための任務をつくして来た父から見ると、現在の政治家のように利のために動い・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫