・・・戸は閉めきってあったが、焚き火もしなければ、火鉢もなかった。で親爺に鼻のさきに水ばなをとまらせていたものだ。なんでも僕は、新聞記事を見てだったか、本を読んでだったか、その日興奮していた。話は、はずんだ。僕は、もう十年か十五年もすれば吾々の予・・・ 黒島伝治 「小豆島」
・・・たゞ、比較的新しいアンペラの切れと、焚き火のあとがあった。恐らく、誰れかの掠奪にでもあったのだろう。「おや、おや、まだ、あしこに、もう一軒、家があるが。」 内部の検分を終えて、外に出た大西が、ふりかえって叫んだ。それは五十米と距らな・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・他の労働者達は焚き火にあたりながら冗談を云ったり、悪戯をしたりして、笑いころげていたが、京一だけは彼等の群から離れて、埃や、醤油粕の腐れなどを積上げた片隅でボンヤリ時間を過した。そのあたりからは、植物性の物質が腐敗して発する吐き出したいよう・・・ 黒島伝治 「まかないの棒」
・・・ 為吉は竈の前につくばって焚き火の明りでそれを見たが、老いた眼には分らなかった。彼は土足のまゝ座敷へ這い上ってランプの灯を大きくした。「何ぞえいことが書いてあるかよ?」おしかは為吉の傍へすりよって訊ねた。「どう云うて来とるぞいの・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
出典:青空文庫