・・・その代り、百円分の薬を無代進呈する。 ……いきなり二百円を請求された支店長たちは、まるで水を浴びた想いに青く濡れた。六百円の保証金をつくるのさえ、精一杯だったのだ。それを、この上どこを叩いて二百円の金を出せというのか。しかし、出さねば、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・貴殿の御存じ寄り通りになるものとのみ、それがしを御見積りは御無体でござる。」「ム」「申した通り、此事は此事、左京一分の事。我等一党の事とは別の事にござる。」「と云わるるは。扨は何処までも物惜みなされて、見す見す一党の利になること・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・文献無代贈呈。』――『寄席芝居の背景は、約十枚でこと足ります。野面。塀外。海岸。川端。山中。宮前。貧家。座敷。洋館なぞで、これがどの狂言にでも使われます。だから床の間の掛物は年が年中朝日と鶴。警察、病院、事務所、応接室なぞは洋館の背景一つで・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・、いんちきの万年筆を、あやしげの口上でのべて売っているのだが、なにせ気の弱い、甘えっ子だから、こないだも、泉法寺の縁日で、万年筆のれいの口上、この万年筆、今回とくべつを以て皆さんに、会社の宣伝のため、無代進呈するものであります、と言って、そ・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・精神の胃が悪くて盛んに吐きけのある患者に無理に豚カツを食わせてみたり、精神の骨がくだけて痛がっているのに無体に体操をさせてみたり、そうかと思うとどこも悪くない人間にギプス包帯をして無理に病院のベッドの上に寝かせるようなことをする場合もありは・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・写生文家の人間に対する同情は叙述されたる人間と共に頑是なく煩悶し、無体に号泣し、直角に跳躍し、いっさんに狂奔する底の同情ではない。傍から見て気の毒の念に堪えぬ裏に微笑を包む同情である。冷刻ではない。世間と共にわめかないばかりである。 し・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・ 五月二日ソヴェトの勤労者達は全然無代でこれらの芝居を見るのである。 特別にこの夜のために脚本が選定されるということはない。平常から各劇場の上演目録は特別の統制機関によって選ばれている。 いつもその時ソヴェトの全勤労者がおかれて・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・「なあ、ヘェ、桃龍はんちゅうたら、あての手無理こ無体に引っぱってどんどんどんどん走らはるのやもん……」 桃龍は、文楽人形のようなグロテスクなところがどこにかある顔で対手を睨むような横目した。「――怪体な舞まわされて、走らずにいら・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・劇場は、だからプロレタリアート農民の文化的生活の切りはなせない一部分として、いつも座席の何割かは前もって産別労働組合を通じ無代で勤労者のために保留している。 工場の労働者、集団農場員、学生はときどきこういうタダ切符を組合から貰って芝居見・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・からの切符配分」という表だ。レーニングラード市内各区の、小学校・ピオニェール分隊・児童図書館・子供の家・工場学校は、それぞれきまった日に、この「若い観衆の劇場」から無代の切符配分をうける、その予告なのである。 親たちは大人の劇場へ職業組・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫