・・・要するにファウストに限って日本での興行を無意義だとするのは誤っていはすまいか。それを無意義だとすると、なんの興行だって無意義になりはすまいか。 これは単に興行したと云うだけを汚涜だと見たのであるが、進んで奈何に興行したかと云う側から汚涜・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・もとより体験の告白を地盤としない製作は無意義であるが、しかし告白は直ちに製作ではない。告白として露骨であることが製作の高い価値を定めると思ってはいけない。けれどもまた告白が不純である所には芸術の真実は栄えない。私の苦しむのは真に嘘をまじえな・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・自分にとって鮮明でないからといってその物を無意義とするのは単なる主観主義に過ぎない。それはまた幼稚の異名である。我々は日本の文化の現状がまだこの幼稚の段階にとどまっているのではないかを恐れる。欧州文化の咀嚼においても、また自国文化の自覚にお・・・ 和辻哲郎 「城」
・・・ ここでばかばかしく無意義に見えた現戦争が、文化史的に非常に重大な意義を獲得する事になる。すなわち文芸復興期以後二十世紀まで続いて来た自然科学と国家組織との発達が、その極点に達して破裂してしまうのである。そうして旧来の自然科学的文化の代・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・私は自分の内にメフィストが住むのもまた無意義でなかったと思う。メフィストがいなければ私の世界も寂しいだろう。メフィストは私の世界を押し広め、多くの心理や見方を教えてくれる。それを機縁として私のファウストが真の叡智を得て行くのである。……メフ・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・美しい住居そのものが無意義なのではない。彼自身も、「あのウイリアム・モリスのように、自分の心の世界と言ってもいいような家を作って、そして、そういうところに住んでみることは、決してぜいたくとは思いません。そこには生活というものと芸術とのおもし・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫