・・・ 思え、熾烈無比の太陽は、何ものをも焼きつくさんとしているではないか。ために大地は熱し、石は焼け、瓦は火を発せんばかりとなり、そして、河水は渇れ、生命あるもの、なべてうなだれて見えるのに、一抹の微小なる雲が、しかも太陽直下の大空に生れて・・・ 小川未明 「常に自然は語る」
・・・界中の学者の重要な研究課目と相なりまして、いやしくも古代の動物に関心を持つほどの者は、ぜひとも一度ニッポンの大サンショウウオにお目にかからなければ話にならぬとまで言われるようになって、なんとも実に痛快無比、御同慶のいたりに堪えません。思って・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・精悍無比の表情を装い、斬人斬馬の身ぶりを示して居るペテロは誰。おのれの潔白を証明することにのみ急なる態のフィリッポスは誰。ただひたすらに、あわてふためいて居るヤコブは誰。キリストの胸のおん前に眠るが如くうなだれて居るこの小鳩のように優美なる・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・孝婦伝など見れば、何々女は貞操無比、夫の悪疾を看護して何十年一日の如し云々とて称賛したるもの多し。先生の如きも必ず称賛者の一人たるは疑を容れず。左れば悪疾の妻は会釈なく離縁しながら、夫に悪疾あれば妻に命じて看護せしめんとするか。ます/\解す・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・(徳川をはじめとして諸藩にても新に寺院を開基し、または寺僧を聘 また近時の日本にて、開国以来大に教育の風を改めて人心の変化したるは外国交際の刺衝に原因して、その迅速なること古今世界に無比と称するものなれども、なおかつ三十の星霜を費し、然・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・ここにおいてか芭蕉は無比無類の俳人として認められ、また一人のこれに匹敵する者あるを見ざるの有様なりき。芭蕉は実に敵手なきか。曰く、否。 芭蕉が創造の功は俳諧史上特筆すべきものたること論を竢たず。この点において何人かよくこれに凌駕せん。芭・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・新聞は毎日毎日、勇壮無比な形容詞をくりかえして、前線の将士の善戦をつたえているが、現代の読者が、ああいう大ざっぱで昔風の芝居がかりな勇気というもののいいあらわしかたや、献身というものの表現を、不満なくうけとって、心持にそぐわない何ものをも感・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・オーギュスト・ロダンが、無比の天才で、精神にも肉体にも力溢れ漲る女性を再誕させたことは誰でも知っている。 それに対して、女性の芸術家は、どんな男性を、彼女等の作品の中に産み出しているだろうか。美術史に遺っている著名な女流画家――ロザ・ボ・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
出典:青空文庫