・・・という一言を信じて、検事は、この男を無罪放免という事にした様子でありますが、私たちの心の中に住んでいる小さい検事は、なかなか疑い深くて、とてもこの男を易々と放免することが出来ないのであります。この男は、予審の検事を、だましたのではないでしょ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・と叫ばせ、満場を総立ちにさせ、陪審官一斉に靴磨きの「無罪」を宣言させ、そうして狂喜した被告が被告席から海老のようにはね出して、突然の法廷侵入者田代公吉と海老のようにダンスを踊らせさえすれば、それでこの「与太者ユーモレスク、四幕、十一景」の目・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・有名なえらい人の偽証は無罪とされ、一般の人の偽証は犯罪とされているその点への疑惑が語られていた。裁判が精神的・物質的圧力から必ずしも自由でないことがうかがえる。 目さきの話題だけに注意を奪われずに、わたしたちは、こんにちの反民主的な権力・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・公判の結果、一同無罪となった。 これはイエニーにとって貴重な経験であった。良人カールとその同志たちの行動は「実に犯してよい行動、本来からいえばブルジョアジーの果すべき義務であるべきもの」であるとしたエンゲルスの理論の正当さは、妻たるイエ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・十二月二十四日の都下の諸新聞は、防共三首都の日本景気に氾濫したニュースと共に、四年間に亙った帝人事件が無罪と決定したこと並に、明春建国祭を期して一大国民運動をおこして特に国体明徴、日本精神の昂揚、個人主義、自由主義、功利主義、唯物主義の打破・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ この集の巻頭にある「無罪の判決」の中には探求すべきいくつかの問題がかくされているのである。話の筋は、氏の得意とされる馴れの行動による知識人夫妻の悲劇的殺傷問題である。良人が兇器をもって不自然に死んだ妻の傍に立っていた。だから良人が手を・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・しかし裁判で、ルッベがナチスのまわしものとしての正体が明かにされドイツ共産党幹部トルグラーやデミトロフは無罪となった。ルッベは死刑となった。 斎藤国警長官の進退をめぐって政府と公安委員会が対立し、公安委員会は斎藤氏の適格を主張し、ついに・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・の母権顛覆が起ったのは、バッハオーフェンがエスキュロスの悲劇の章句によって説明したように女神アテネが良人アガメムノンと良人の父とを殺害した母親クリテムネストラを殺して復讐した息子オレステスを無罪にしたことから由来しているというよりは、人間の・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・現代の科学力は、それが国際的な軍需生産者の独占資本に使役されるとき、戦争行為におかれた国々の軍事的拠点に、想像できないほど巨大な破壊力を加えるばかりでなく、その周辺の全く無罪な人民の生命を、老若の差別なくみな殺しにする。この事実はナガサキと・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・法学博士で大臣だった三土忠造でさえ、一九二九年か三〇年ごろ涜職事件で検挙投獄され、公判廷で奮闘して無罪を証明したあとで『幽囚記』という本をかいた。その中で政治的な事件の本質と、検事のとりしらべの強権にふれている。 三鷹事件が、多くの良識・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
出典:青空文庫