・・・ この間の消息を詳細に眺めると、やはりそこには無量の感慨を誘うものが横わっている。作業場の設置者、技術指導者は、きわめて公平といえばいえる率直さで娘たちが立派に男の熟練工なみどころか、外国の技術者の五倍もの能力をもっていることを承認して・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・この一句は、無量の思いをつたえる。愛のこころはこのように小粒な、しかも歳月によって磨滅することのない表現のうちにこめられているのである。涙は眼に溢れるけれども、頭は昂然と歴史の前途に向ってもたげ、愛と勇気と堅忍とをもって民主の日本を生きよう・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・ どんなに陰気になっていても、彼女の年の持つ単純さが、新らしく彼女を取り繞った周囲に対して、驚くべき好奇心、探究心を誘い出し、ことごとに満たされ、ことごとに適度な緊張となる新規な習慣や規則が、実に無量の鼓舞と慰安とを与えたのである。・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 彼は駸々と滲み出して来る無量の淋しさと、頼りなさに、自分の身も心も溺れそうな気がした。 今までは自分の後にあって、目に見えぬ支えとなっていてくれた何か、何かの力が、もうすっかり自分を見捨てて独りぼっち取りのこしたまま、先へ先へと流・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・を進行させている事実とを眺めわたしたとき、人民の権利というものについて無量の思いがあります。ファシズムに反対するというような言葉の上での決議や、戦争挑発にだまされないという小さな決意ぐらいでは、古い大組織をもち、国際的な旧勢力と無関係でない・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・遊子茫然としてこの境にたたずむ時胸には無量の悲哀がある。この堪え難き悲哀は何をか悲しみ何をか哀れむ。虫の音は、花の色は、すべての宇宙の美は、虚無でない、虚無でない「美」の底に悲哀が包まれたるは何の意味であるか。銀座の通りを行く。数十百の電車・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫