・・・鶏や、雀と違って、ただ聞いても、鴛鴦だの、白鷺のあかんぼには、博物にほとんど無関心な銑吉も、聞きつつ、早くまず耳を傾けた。 在所には、旦那方の泊るような旅館がない。片原の町へ宿を取って、鳥博士は、夏から秋へかけて、その時々。足繁くなると・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・服装なんか、どうでもいいものだとは、昔から一流詩人の常識になっていて、私自身も、服装に就いては何の趣味も無し、家の者の着せる物を黙って着ていて、人の服装にも、まるで無関心なのであるが、けれども、やはり、それにも程度があって、ズボン一つで、上・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・所謂有能な青年女子を、荒い破壊思想に追いやるのは、民主革命に無関心なおまえたち先輩の頑固さである。 若いものの言い分も聞いてくれ! そうして、考えてくれ! 私が、こんな如是我聞などという拙文をしたためるのは、気が狂っているからでもなく、・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・酒はいくらでも飲むが、女には無関心なふうを装っていた。どんな生活をしているのか、住所は絶えず変って、一定していないようであった。この男が、どういうわけか、勝治を傍にひきつけて離さない。王様が黒人の力士を養って、退屈な時のなぐさみものにしてい・・・ 太宰治 「花火」
・・・人間に無関心な自然の精神、自然の宗教、そのようなものが、美しい風景にもやはり絶対に必要である、と思っているだけである。 富士を、白扇さかしまなど形容して、まるでお座敷芸にまるめてしまっているのが、不服なのである。富士は、熔岩の山である。・・・ 太宰治 「富士に就いて」
・・・ 絵画には全く無関心だそうである。四元の世界を眺めている彼には二元の芸術はあるいはあまりに児戯に近いかもしれない。万象を時と空間の要素に切りつめた彼には色彩の美しさなどはあまりに空虚な幻に過ぎないかもしれない。 三元的な彫刻には多少・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・そんな風であるから、ともかくも彼が教育という事に無関心な仙人肌でない事は想像される。 アインシュタインの考えでは、若い人の自然現象に関する洞察の眼を開けるという事が最も大切な事であるから、従って実科教育を十分に与えるために、古典的な語学・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ それで、そういういろいろな物の見方に慣れた科学者が人間界の現象に対してそういう見方から得られるいろいろな可能性を指摘してそれに無関心な世人の注意を促すということは、科学者としてふさわしいことであって、そうしてむしろ科学者にしてはじめて・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・そのとき、相手の人によると自分のカメラをさげていることなどにはあまり無関心なように見えるが、また人によると、何よりも第一にすぐ写真機に目をつける人もある。同病相哀れむゆえんであろうか。 いちょうの黄葉は東京の名物である。しかしいくらとっ・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・ 少なくも、真黒な指の痕をつけている人は、名札の汚れなどという事には全然無関心な人であるというくらいのことは云われそうである。わざわざ痕をつけて、それが日々黒くなるのを楽しみにする人はめったになさそうに思われる。 気が付いてみると自・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫