・・・国内の情勢をはかる場合、プロレタリアートの先進部隊としての役割が改めて重大関心の焦点となった。 民主主義文学運動が、その本来の性質にふくんでいる人民としての政治的要素、階級文学としての政治性は、ここにおいて一九四八年末から一九四九年にか・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・従って作品の実際に当っては、最も手近なかつ日常的な恋愛の推移の過程を、些かは感傷ぬきに雄々しく描こうとする努力、又は俗世間の利害の焦点の推移によって権力も推移する浮世の姿を描くという試みの限度に置かれたのであるが、この能動精神の主観的理解に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・すると、乞食は焦点の三に分った眼差しで秋三を斜めに見上げながら、「俺は安次や。心臓をやられてさ。うん、ひどい目にあった。」と彼から云った。 秋三は自分の子供時代に見た村相撲の場景を真先に思い浮かべた。それは、負けても賞金の貰える勝負・・・ 横光利一 「南北」
・・・氏はこの情趣に焦点を置いて、この焦点をはずれたものを顧みない。この態度が、右のごとき焦点をきめずに、ありのままに感得した美を描いて、おのずからに情趣を滲み出させる態度と異なっている事は言うまでもなかろう。 もっと具体的に言えば、氏はその・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ この物語では、女主人公の苦難や、首なくしてなおその乳房で嬰児を養っている痛ましい姿が、物語の焦点となっているが、しかしこの女主人公自身が熊野の権現となったとせられるのではない。ただ首なき母親に哺育せられた憐れな太子と、その父と伯父との・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・彼は色道修行者のように女の享楽を焦点として国々を見て歩くのではない。また彼は美術史家のように、ただ古美術の遺品をのみ目ざして旅行するのでもない。彼は美しいものには何ものにも直ちに心を開く自由な旅行者として、たとえば異郷の舗道、停車場の物売り・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・その焦点にはただ対手の感情のみがあって、自分はない。むしろ自己が、その焦点において、対手の内に没入しているのである。けれどもいかに自分を離れた気持ちになっていても、「自分」が「対手」になることはできない。対手の感情を感じながら、実はやはり自・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
・・・人間の生活そのものが、すべての問題の焦点に来る。国家は、人生目的の実現に対して有利であるという事をほかにして、もはや存在の理由をもたないのである。 かくて人間の生活は、永い間の抽象化を脱して、久しぶりに具体的になる。 人類の運命はや・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・ この傾向を焦点として見れば、彼らは享楽のほかに生活を持っていない。彼らはともに全身をもって、全生活をもって享楽しようとする。彼らは内面外面のあらゆる道徳を振り捨てて人の恐れる「底」に沈淪する事を喜ぶ。聖人が悪とする所は彼らには善である・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・顔面は人の表情の焦点であり、自然的な顔面の把捉は必ずこの表情に即しているのである。ことに能面の時代に先立つ鎌倉時代は、彫刻においても絵画においても、個性の表現の著しく発達した時代であった。その伝統を前にながめつつ、ちょうどその点を殺してかか・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫