・・・お秀は嘆息ついて、そして淋びしそうな笑を顔に浮かべ、「ほんに左様ですよ、人様のお話の取次をして何番々々と言って居るうちに日が立ちますからねエ」と言って「おほほほほ」と軽く笑う。「女の仕事はどうせ其様なものですわ、」とお富も「おほほほほ」・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・ 強て何か話が無いかとお尋ねならば、仕方がありません、わたくしが少時の間――左様です、十六七の頃に通学した事のある漢学や数学の私塾の有様や、其の頃の雑事や、同じ学舎に通った朋友等の状態に就いてのお話でも仕て見ましょう。今でも其の時分の面・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・が与えた左様いう感じも必ずしも小さい働ではないと思います。文章発達史の上から云えば矢張り顧視せねばならぬ事実だと思います。 それはまあただ文章の上だけの話でありますが、其から「浮雲」其物が有した性質が当時に作用した事も中々少くはなかった・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・ああ、左様々々、まだ其頃のことで能く記臆して居ることがあります。前申した會田という人の許へ通って居た頃、或日雨が大層降って溝が開いたことがある。腿立を挙げる智慧も無かったと見えて袴を穿いたままのろのろと歩いていって、其儘上りこんで往ったもの・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・だって君、左様じゃないか。僕だって働かずには生きて居られないじゃないか。その汗を流して手に入れたものを、ただで他に上げるということは出来ない。貰う方の人から言っても、ただ物を貰うという法はなかろう。」 こう言い乍ら、自分は十銭銀貨一つ取・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・やがてあの人は宮に集る大群の民を前にして、これまで述べた言葉のうちで一ばんひどい、無礼傲慢の暴言を、滅茶苦茶に、わめき散らしてしまったのです。左様、たしかに、やけくそです。私はその姿を薄汚くさえ思いました。殺されたがって、うずうずしていやが・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・縄を取去り、その場にうち伏したまま、左様、一時間くらい死人のようにぐったりしていた。蟻の動くほどにも動けなかった。そのときポケットの中の高価の煙草を思い出し、やたらむしょうに嬉しくなって、はじかれたように、むっくり起きた。ふるえる手先で煙草・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ なお、その老人に茶坊主の如く阿諛追従して、まったく左様でゴゼエマス、大衆小説みたいですね、と言っている卑しく痩せた俗物作家、これは論外。 四 或る雑誌の座談会の速記録を読んでいたら、志賀直哉というのが、妙に・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・「へい。それはきっとお預かりいたしまするでございます」「左様か。あいや。金子はこれにじゃ。そち自ら蓋を開いて一応改めくれい。エイヤ。はい。ヤッ」さむらいはふところから白いたすきを取り出して、たちまち十字にたすきをかけ、ごわりと袴のも・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・「そうするとおうちの方ではどうなるのですか。」 狐の校長さんは青く光るそらの一ところを見あげてしずかに鬚をひねりながら答えました。「左様、左様、至極ご尤なご質問です。私の方は太陰暦を使う関係上、月曜日が休みです。」 私はすっ・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
出典:青空文庫