・・・我が心の照応する所境によって変幻極りない。僕が御幣を担ぎ、そを信ずるものは実にこの故である。 僕は一方鬼神力に対しては大なる畏れを有っている。けれどもまた一方観音力の絶大なる加護を信ずる。この故に念々頭々かの観音力を念ずる時んば、例えば・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・椿岳の画の妙味はその畸行と照応していよいよ妙味を深くする感がある。十一 画人椿岳椿岳の画才及び習画の動機 椿岳の実家たる川越の内田家には芸術の血が流れていたと見えて、椿岳の生家にもその本家にも画人があったそうだ。椿岳も児・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・が聴く雨と最後の坂田翁の聴く雨とを照応させて「聴雨」としたのです。因みに坂田翁が木村八段と対局した南禅寺の書斎には「聴雨」の二字を書いた額が掛っていたとのことです。 次にこの小説で「私」を出したのはどういう秘密かとのお問いですが、これは・・・ 織田作之助 「吉岡芳兼様へ」
・・・それで、発声映画において視覚のリズムと照応した物音の律動的駆使によって著しい効果を収めうるのは当然のことである。たとえば、ルービッチの「モンテカルロ」で突進する機関車のエンジンの運動と汽笛の音と伴奏音楽との合成的律動や、「自由をわれらに」に・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・のシーンと照応して生きてくるように思われる。それのみならず自分はこの映画いったいの仕組みの上からもいっさいの理屈をなくした心持ち気持ちのコンティニュイティとしての一種の俳諧を感じる。これは「パリの屋根の下」でも「百万両」でも感じたものである・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 拳闘場の鉄梯子道の岐路でこの二人が出会っての対話の場面と、最後に監獄の鉄檻の中で死刑直前に同じ二人が話をする場面との照応にはちょっとしたおもしろみがある。 ゲーブルの役の博徒の親分が二人も人を殺すのにそれが観客にはそれほどに悪逆無・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・しかしそれだけであってこのギバの他の属性に関する記述とはなんら著しい照応を見ない。もっとも旋風は多くの場合に雷雨現象と連関して起こるから、その点で後に述べる時間分布の関係から言って多少この説に有利な点はある。しかしいわゆる光の現象やまた前述・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ともかくもこの事と、鸚鵡石で鉦や鈴や調子の高い笛の音の反響しないという記事とは相照応する点がある。しかしこれも本式に研究してみなければよくはわからない。 近ごろは海の深さを測定するために高周波の音波を船底から海水中に送り、そ・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・換言すればその詩を味わう読者各自の能知に内在する、その原型の模型にどれだけ照応するかの程度によって各評価者の価値判断が極るのであろう。 以上のごとき立場から見てこれと反対な位置にあるものは、色々の事実や事件の平坦な叙述的描写を主調とした・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・たとえば第一の部分がある旋律によって表わされた一つの主題であるとすれば、第二の部分はこれと照応しまた対比さるべきものであり、これに次いで来る第三すなわち終局部では再び前の主題が繰り返される。またソナタ形式ならば、第一主題、第二主題の次にいわ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫