・・・「宗ちゃん、……朝の御飯はね、煮豆が買って蓋ものに、……紅生薑と……紙の蔽がしてありますよ。」 風俗係は草履を片手に、もう入口の襖を開けていた。 お千が穿ものをさがすうちに、風俗係は、内から、戸の錠をあけたが、軒を出ると、ひたり・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・朝帰りの客を当て込んで味噌汁、煮豆、漬物、ご飯と都合四品で十八銭、細かい商売だと多寡をくくっていたところ、ビールなどをとる客もいて、結構商売になったから、少々眠さも我慢出来た。 秋めいて来て、やがて風が肌寒くなると、もう関東煮屋に「もっ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・しまいには三度三度煮豆で飯を食うようになった。自炊もめんどうなものだぞ。お前たちにそれが続けられるかしら。」 私としては、もっとこの子を自分の手もとに置いて、できるだけしたくを長くさせ、窮屈な思いを忍んでもらいたかったが、しかしこういう・・・ 島崎藤村 「分配」
出典:青空文庫