-
・・・ああ、娘は、茶碗を白湯に汲みかえて、熊の胆をくれたのである。 私は、じっと視て、そしてのんだ。 栃の餅を包んで差寄せた。「堅くなりましょうけれど、……あの、もう二度とお通りにはなりません。こんな山奥の、おはなしばかり、お土産に。――・・・
泉鏡花
「栃の実」
-
・・・ほんとうはなめとこ山も熊の胆も私は自分で見たのではない。人から聞いたり考えたりしたことばかりだ。間ちがっているかもしれないけれども私はそう思うのだ。とにかくなめとこ山の熊の胆は名高いものになっている。 腹の痛いのにもきけば傷もなおる。鉛・・・
宮沢賢治
「なめとこ山の熊」