・・・「今Sなる面積を通し、T時間内に移る熱量をEとするね。すると――好いかい? Hは温度、Xは熱伝導の方面に計った距離、Kは物質により一定されたる熱伝導率だよ。すると長谷川君の場合はだね。……」 宮本は小さい黒板へ公式らしいものを書きは・・・ 芥川竜之介 「寒さ」
真夏の正午前の太陽に照りつけられた関東平野の上には、異常の熱量と湿気とを吸込んだ重苦しい空気が甕の底のおりのように層積している。その層の一番どん底を潜って喘ぎ喘ぎ北進する汽車が横川駅を通過して碓氷峠の第一トンネルにかかるこ・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・それらがみんな吸えるだけの熱量を吸って温かそうにふくれ上がっている。 コキコキ。コキコキ。コキコキコキッ。 ブリキを火箸でたたくような音が、こういうリズムで、アレグレットのテンポで、単調に繰返される。兎唇の手術のために入院している幼・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・食物の中で消化される分の熱量ででもご比較になったら割合正確だろうと存じます。そう云うふうにしますと一般に動物質の方が消化率も大きいのでありますからよほどお得になります。お得にはなりますがとてもとても半々なんというわけには参りますまい。こんな・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・て強烈でありながら、客観的には一種の無力状態であるから、より年少な世代の精神的空白をみたし、戦争によって脳髄をぬきとられた青春にその誇りをとりもどし、その人間的心持に内容づけを与えてやる、どんな精神的熱量をも放射しえないでいるのである。・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・もしかすると、短篇が更にそこに横溢している生活感情や色彩熱量などの点で卓抜であるというひともいないではないでしょう。例えば「二十六人と一人」「チェルカッシュ」などを愛読したひとは。 ゴーリキイが、あらゆる点で豊富なテムペラメントを持って・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
・・・この本は、今日の歴史のものに対する、私たちの健全な愛着と奮闘心とを呼びさます熱量をはらんでいるのである。〔一九三七年十二月〕 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・ぞれの報告は、それとして熱心であり、勉強されており、発展的なモメントをふくんでいながら、会衆の精神をめざまし、情感をかきたて、民主主義文学のために努力しているものとしての歓喜や勇気を感じさせる統一的な熱量を欠いていたことである。一つ一つの報・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・カロリーということがいわれて、何の総熱量は何と何との総熱量と同量であるから、これとあれとは人体に同じ作用をおよぼす、というようによく新聞などに出るけれど、科学の進歩は私たちにカロリーとともに、そのカロリーをつくるエレメントのことを教えている・・・ 宮本百合子 「私の感想」
出典:青空文庫