・・・おぎんの心は両親のように、熱風に吹かれた沙漠ではない。素朴な野薔薇の花を交えた、実りの豊かな麦畠である。おぎんは両親を失った後、じょあん孫七の養女になった。孫七の妻、じょあんなおすみも、やはり心の優しい人である。おぎんはこの夫婦と一しょに、・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・――クリストの眼を見ると共に、彼はこう云う語が、熱風よりもはげしく、刹那に彼の心へ焼けつくような気もちがした。クリストが、実際こう云ったかどうか、それは彼自身にも、はっきりわからない。が、ヨセフは、「この呪が心耳にとどまって、いても立っても・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・私は彼らに時代の熱風が吹かんことを望まずにはおられぬ。 失恋の場合 こちらで思う人が自分を思ってくれない場合、いわゆる片恋の場合にもいろいろある。胸の思いはいや増してもどうしてもうまくいかないことがある。原則とし・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・何よりも困難なことには、内地のような木造家屋は地震には比較的安全だが台湾ではすぐに名物の白蟻に食べられてしまうので、その心配がなくて、しかも熱風防御に最適でその上に金のかからぬといういわゆる土角造りが、生活程度のきわめて低い土民に重宝がられ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
出典:青空文庫