・・・浄火と云うものは燃えているものだと云うのは、大の虚報である。浄火は本当の火ではない。極明るい、薔薇色の光線である。人間を長い間その中に据わらせておいて、悪い性質を抜け出させるのである。 ツァウォツキイはだんだん光線に慣れて来て、自分の体・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・思いを殺し、腰蓑の鋭さに水滴を弾いて、夢、まぼろしのごとく闇から来り、闇に没してゆく鵜飼の灯の燃え流れる瞬間の美しさ、儚なさの通過する舞台で、私らの舟も舷舷相摩すきしみを立て、競り合い揺れ合い鵜飼の後を追う。目的を問う愚もなさず、過去を眺め・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・ また一本のマッチを摩ったのが、ぷすぷすといって燃え上がった時、隅の方でこんなことをいうのが聞えた。「まぶしい事ね。」 フィンクはこの静かな美しい声に耳を傾けた。そして思わず燃え下がったマッチでその方角を照して見た。なんだかヴェ・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・我々の眼や我々の意欲は、このオーケストラを伴奏としてさらに燃え、さらに躍動しようとする。そうしてこの心は自らを表現しないではやまない。たとえ我々の生命の沸騰が力弱く憐れなものであるにしても、我々はなお投与すべき力の横溢を感ずる。我々は不断に・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫