・・・ そこで、卓子に肱をつくと、青く鮮麗に燦然として、異彩を放つ手釦の宝石を便に、ともかくも駒を並べて見た。 王将、金銀、桂、香、飛車、角、九ツの歩、数はかかる境にも異はなかった。 やがて、自分のを並べ果てて、対手の陣も敷き終る折か・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・百合、撫子などの造花に、碧紫の電燈が燦然と輝いて――いらっしゃい――受附でも出張っている事、と心得違いをしていたので。 どうやら、これだと、見た処、会が済んだあとのように思われる。 ――まさか、十時、まだ五分前だ―― 立っていて・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・けれども、羽に碧緑の艶濃く、赤と黄の斑を飾って、腹に光のある虫だから、留った土が砥になって、磨いたように燦然とする。葛上亭長、芫青、地胆、三種合わせた、猛毒、膚に粟すべき斑はんみょうの中の、最も普通な、みちおしえ、魔の憑いた宝石のように、ぎ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 当時の欧化は木下藤吉郎が清洲の城を三日に築いたと同様、外見だけは如何にも文物燦然と輝いていたが、内容は破綻だらけだった。仮装会は啻だ鹿鳴館の一夕だけでなくて、この欧化時代を通ずる全部が仮装会であった。結局失態百出よりは滑稽百出の喜劇に・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ たとえ、それがために、現在のごとき、燦然たる機械文明は見られなくとも、また大量的な生産機関に発達しなくとも、そのかわり、相殺し、相陥ることから全く救われていたと言える。しかるに、資本主義的文化によって、人類の富は、平等を欠き、平和は、・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・ルガ如ク驚キ、ハネ起キテ、兵古帯ズルズル引キズリナガラ書店ヘ駈ケツケ、女房ノヘソクリ盗ンデ短銃買ウガ如キトキメキ、一読、ムセビ泣イテ、三嘆、ワガ身クダラナク汚ク壁ニ頭打チツケタキ思イ、アア、君ノ姿ノミ燦然、日マワリノ花、石坂君、キミハ鶴見祐・・・ 太宰治 「創生記」
・・・それどころか、たとえ小粒でも適当な形に加工彫琢したものは燦然として遠くからでも「視える」のである。これはこれらの物質がその周囲の空気と光学的密度を異にしているためにその境界面で光線を反射し屈折するからであって、たとえその物質中を通過する間に・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・けれども、ジュコーフスキー流にやると、成功すれば光彩燦然たる者であるが、もし失敗したが最後、これほど見じめなものはないのだから、余程自分の手腕を信ずる念がないとやりきれぬ。自分はさすがにそれほど大胆ではなかったので、どうも険呑に思われて断行・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・夜の来た硝子の窓には背に燈火を負う私の姿が万年筆の金冠のみを燦然と閃かせ未生の夢に包まれたようにくろく 静かに 写って居る。 *ああ、海! 海広い懐の大海お前の際限ない胸を張れ!濤をあ・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・人間の持つ尊厳と光彩と天才とは彼等の上に燦然と輝きますでしょう。然し又他の一方には、其等の悠久な軛であるあらゆる「あるべきもの」の消極も存在して居ります。此の二方面の力の消長に、人は聰明でなければなりません。一面から申せば、彼女等の苦しむ事・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫