・・・プロマイド屋の飾窓に反射する六十燭光の眩い灯。易者の屋台の上にちょぼんと置かれている提灯の灯。それから橋のたもとの暗がりに出ている螢売の螢火の瞬き……。私の夢はいつもそうした灯の周りに暈となってぐるぐると廻るのです。私は一と六の日ごとに平野・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・と書いた大提灯がぶら下っていて、その横のガラス箱の中に古びたお多福人形がにこにこしながら十燭光の裸の電灯の下でじっと坐っているのである。暖簾をくぐって、碁盤の目の畳に腰掛け、めおとぜんざいを注文すると、平べったいお椀にいれたぜんざいを一人に・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・七 十六燭光を取りつけた一個の電燈は、煤と蝿の糞で、笠も球も黒く汚れた。 いつの間にか、十六燭は、十燭以下にしか光らなくなっていた。電燈会社が一割の配当をつゞけるため、燃料で誤魔化しをやっているのだった。 芝居小屋へ・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・「将来の燭光を見た時の心の姿です。」「現在の?」「それは使いものになりません。ばかです。」「あなたには自信がありますか。」「あります。」「芸術とは何ですか。」「すみれの花です。」「つまらない。」「・・・ 太宰治 「かすかな声」
出典:青空文庫