・・・彼の受けた命令は、その玄武門に火薬を装置し、爆発の点火をすることだった。だが彼の作業を終った時に、重吉の勇気は百倍した。彼は大胆不敵になり、無謀にもただ一人、門を乗り越えて敵の大軍中に跳び降りた。 丁度その時、辮髪の支那兵たちは、物悲し・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ ――若し、今、こいつに火をつけたら、ダイナマイト見たいに、爆発するに決ってる。俺が海事局へ行ってから、十分に思い知らしてやればいいんだ。それまでは、豆腐ん中に頭を突っ込んだ鰌見たいに、暴れられる丈け暴れさせとくんだ。―― セコンド・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・ 雲がすっかり消えて、新らしく灼かれた鋼の空に、つめたいつめたい光がみなぎり、小さな星がいくつか連合して爆発をやり、水車の心棒がキイキイ云います。 とうとう薄い鋼の空に、ピチリと裂罅がはいって、まっ二つに開き、その裂け目から、あやし・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・と時間に合せて盤をまわすと、そのとき出ているそらがそのまま楕円形のなかにめぐってあらわれるようになって居りやはりそのまん中には上から下へかけて銀河がぼうとけむったような帯になってその下の方ではかすかに爆発して湯気でもあげているように見えるの・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・同志というより一人の好きでない男という心持がその共働者に対して爆発し、ある夜、良人である同志の家へ逃げ出して来る。すると、良人はその一部始終をきいて、静かに、眼を伏せながらいった。「お帰り。」女は「だって……」と了解しかねていうと良人は昂奮・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・は、まだ多分に、この作者が幼時の環境からしみこまされていたアナーキスティックな爆発があった。しかし、少女時代の労働のために健康を失ったこの作者が、妻、母として、党員として東北の小さい町に負担の多い生活とたたかいながら一つ一つ作品を重ねて来て・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・ここではパートの崩壊、積重、綜合の排列情調の動揺若くはその突感の差異分裂の顫動度合の対立的要素から感覚が閃き出し、主観は語られずに感覚となって整頓せられ爆発する。時として感覚派の多くの作品は古き頭脳の評者から「拵えもの」なる貶称を冠せられる・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・かかる愛の爆発力は同じき理想の旗のもとに、最早や現実の実相を突破し蹂躙するであろう。最早懐疑と凝視と涕涙と懐古とは赦されぬであろう。その各自の熱情に従って、その美しき叡智と純情とに従って、もしも其爆発力の表現手段が分裂したとしたならば、それ・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・長州風呂でかまどは大きかったのであるが、しかしもみじの葉をつめ込んで火をつけると、大変な煙で、爆発するようにたき口へ出て来た。そのわりに火力は強くなかった。山のように積み上げたもみじの葉を根気よくたき口から突き込んで、長い時間をかけて、やっ・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・創作家の場合には、精神的疲労のために、そういう折檻が癇癪の爆発の形で現われやすいであろう。しかしその欠点は母親が適当に補うことができる。純一君の場合は、母親がこの緩和につとめないで、むしろ父親の癇癪に対する反感を煽ったのではなかろうか。その・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫