・・・「成経様は御年若でもあり、父君の御不運を御思いになっては、御歎きなさるのもごもっともです。」「何、少将はおれと同様、天下はどうなってもかまわぬ男じゃ。あの男は琵琶でも掻き鳴らしたり、桜の花でも眺めたり、上臈に恋歌でもつけていれば、そ・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・ 父君ブラゼンバートは、嬰児と初の対面を為し、そのやわらかき片頬を、むずと抓りあげ、うむ、奇態のものじゃ、ヒッポのよい玩具が出来たわ、と言い放ち、腹をゆすって笑った。ヒッポとは、ブラゼンバートお気にいりの牝獅子の名であった。アグリパイナ・・・ 太宰治 「古典風」
・・・と疳違をしたものと見えて「いつか夏目さんといっしょに皆でウィンブルドンへでも行ったらどうでしょう」と父君と母上に向って動議を提出する、父君と母上は一斉に余が顔を見る、余ここにおいてか少々尻こそばゆき状態に陥るのやむをえざるに至れり、さりなが・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・このことおもてより願わばいとやすからんとおもえど、それのかなわぬは父君のみ心うごかしがたきゆえのみならず。われ性として人とともに歎き、人とともに笑い、愛憎二つの目もて久しく見らるることを嫌えば、かかる望みをかれに伝え、これにいいつがれて、あ・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫