・・・ 家族の者とても、取調べを受けない訳には行かなかった。片っ端から母を異にする兄弟姉妹の間に、何かありはしないか? 最近の犯罪傾向が暗示する、骨肉相殺がないか? 人々は信ずる処を失ってしまった。滅茶苦茶であった。虚無時代であった。恐怖・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・ 労働者たちは、その船を動かす蒸汽のようなものだ。片っ端から使い「捨て」られる。 暗い、暑い、息詰る、臭い、ムズムズする、悪ガスと、黴菌に充ちた、水夫室だった。 病人は、彼のベッドから転げ落ちた。 彼は「酔っ払って」いた。・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・するとあの鳥捕りは、すっかり注文通りだというようにほくほくして、両足をかっきり六十度に開いて立って、鷺のちぢめて降りて来る黒い脚を両手で片っ端から押えて、布の袋の中に入れるのでした。すると鷺は、蛍のように、袋の中でしばらく、青くぺかぺか光っ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・とこう書いてあったから、農学校の畜産の、助手や又小使などは金石でないものならばどんなものでも片っ端から、持って来てほうり出したのだ。 尤もこれは豚の方では、それが生れつきなのだし、充分によくなれていたから、けしていやだとも思わなかった。・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ だから万一一人の共産党青年が片っ端から女を引っかけてゆくとする。それを恋愛は自由であるからとして放任して置くかというと全然反対である。余り非社会的な行為をする場合には共産党青年団の中で、同志的制裁を加えるか、反省を促される。 女の・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
・・・だから万一一人の青年共産主義同盟員が片っ端から女を引っかけてゆくとする。それを恋愛は自由であるからとして放任して置くかというと全然反対である。余り非社会的な行為をする場合には青年共産主義同盟の中で、同志的制裁を加えるか、反省を促される。女の・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ああやってせっかく気を揉んで使をよこすと、片っ端からいらないいらないじゃあ、誰にしろいい心持あしないもんです。 あんまり勝手がすぎると、ついそこまで考えるのも、年寄りにゃあ有勝ちのこった。ねえ。 せっかくこちらも、こうやって決してそ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・思付なんぞはいくらでもあるから、片っ端から人にくれて遣る。それを一つ掴まえて為事にする奴が成功するのだ。中には己の思付で己より沢山金をこしらえるものもある。金が何だ。金くらい詰まらないものが、世の中にありゃあしねえ。」 博士はそろそろ巻・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
出典:青空文庫