・・・ 九人一つ座敷にいる中で、片岡源五右衛門は、今し方厠へ立った。早水藤左衛門は、下の間へ話しに行って、未にここへ帰らない。あとには、吉田忠左衛門、原惣右衛門、間瀬久太夫、小野寺十内、堀部弥兵衛、間喜兵衛の六人が、障子にさしている日影も忘れ・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・六、七歳頃から『八犬伝』の挿絵を反覆して犬士の名ぐらいは義経・弁慶・亀井・片岡・伊勢・駿河と共に諳んじていた。富山の奥で五人の大の男を手玉に取った九歳の親兵衛の名は桃太郎や金太郎よりも熟していた。したがってホントウに通して読んだのは十二、三・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・会う機会を得た作家は、会うた順に言うと、藤沢、武田、久米、片岡、滝井、里見の諸氏。最近井上友一郎氏に会い、その大阪訛をきいて、嬉しかった。 小説の勉強をはじめてからまだ四年くらいしか経たない。わが文学修業はこれからである。健康が許せば、・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・そういう時には、片岡直温のヘマ振りまで引っぱり出して猛烈に攻撃する。 演説会とは、反対派攻撃会である。 そこへ行くと、無産政党の演説会は、たいていどの演説会でも、既成政党を攻撃はするが、その外、自分の党は何をするか、を必ず説く。そこ・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・職場にいた頃、機関雑誌に僕はミューレンの焼き直し童話や、片岡鉄兵氏ばりのプロレタリア小説を書いていました。十銭で買った『カラマゾーフの兄弟』の感激もありましたろう。貧乏大学生の話、殊に嫁を貰ってからの兄との遠慮は、ぼくにまた幼年時からの理想・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・吉良上野のほうはだれがやるとしても比較的やさしいと思われるが浅野内匠のほうは実際むつかしい。片岡千恵蔵氏もよほど苦心はしたようであるが、どうも成効とは思われない。あの前編前半のクライマックスを成す刃傷の心理的経過をもう少し研究してほしいとい・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 片岡鉄兵氏が一九三〇年に書かれた「愛情の問題」は、その点で非常に興味のある作品であると思う。闘争に参加している夫婦が部署の関係で別々の活動に従わなければならないことになり、妻である婦人闘士はある男の同志と共同生活をはじめる。男の同志は・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・『戦旗』が一九二九年ごろ、片岡鉄兵の「アジ太・プロ吉世界漫遊記」をのせて大好評であった。一九三一年に「ナップ」は、数人の作家に課題小説をわりあてた。農民小説は誰、労働者小説は誰、という風に。そして、作者はソヴェト同盟の生活をどっさり紹介・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 藤森成吉の「磔茂左衛門」片岡鉄兵の「綾里村快挙録」などは、歴史のなかにおける個人の関係を個人の自然主義風な本能的なものからのみ見ず、社会において彼等の日々の生活がおかれているその現実の諸相からの反映、又それへの主観的な働きかけの歴史性・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 親の見出してくれた配偶者と結婚して幸福な生活がいとなめないなどと思う心持は毛頭ないけれど、それでも、この女性の感じかたはその時司会をしていられた片岡鉄兵氏をも何となしおどろかしたところがあったように見える。片岡さんは、少し意外そうな語・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
出典:青空文庫