・・・そうしてお子さんもたくさんできるわ。そうして物干し竿におしめがにぎやかに並びますわ。青島さんは花田さんといっしょに会をやって、きっと偉くなるわ。いまにみんながあなたの画を認めて大騒ぎする時が来てよ。そうして堂脇さんとやらが、美しいお嬢さんを・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・もし夜中に外で、猫が猫とけんかでもしていますと、ばあさんは起きて出て、物干しざおを持ってきて、猫がけんかをして鳴いているほうへゆきました。そして、自分の家の猫に向かっているほかの猫を突いたりなぐったりしたのです。 あまりばあさんが自分か・・・ 小川未明 「少年の日の悲哀」
・・・ せんたく屋の場面では物干し場の綱につるしたせんたく物のシャツやパジャマが女を相手に踊るという趣向がある。少しふざけ過ぎたようであまり愉快なものではないが、しかし、これなども映画で見ればこそ、それほどの悪趣味には感ぜられないで、一種のフ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ たぶんだめだろうとは思ったが、試みに物干し竿の長いのを持って来て、たたき落とし、はね落とそうとした。しかしやっぱり無効であった。はねるたびにあの紡錘形の袋はプロペラーのように空中に輪をかいて回転するだけであった。悪くすると小枝を折り若・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・しかしそういう偏見なしにでもおそらくあれはあまり美しいものではない。物干しざおのようなものにひょろひょろ曲がった針金を張り渡したのは妙に「物ほしそう」な感じのするものだと思う。あんなことをしないでもすむ方法はあるそうである。 ラディオを・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・ベコベコジャミセン○物干しに出て、どじょうすくいを踊るのをこっちから見て居る。「乃木節じゃ私ァ霞町一番だったんだ」から下手。「踊じゃ私がやっぱり師匠かな」夜、おかみさんが「お膳はあしたすっかりふいておかえししますよ、ねエ」云々。・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・活動写真館の音楽隊は、太鼓、クラリネットを物干しまで持ち出し、下をぞろぞろ通る娘たちを瞰下しつつ、何進行曲か、神様ばかり御承知の曲を晴れた空まで吹きあげた。「きみちゃん、おいでよ、これ」「サア入らっしゃい! 入らっしゃい!」 下・・・ 宮本百合子 「町の展望」
出典:青空文庫