・・・自分の怪しう物狂おしいこの一篇の放言がもしやそれと似たような役に立つこともあれば、それによって幾分か僭上の罪が償われることもあろうかと思った次第である。 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・丁度、そのころの作者が女としての生活の現実で物狂おしいほど苦しみながら、その苦しみの原因を、自分の内にあるものと、対手のひとのもっているものの考えかたの社会的な性質のちがいにおいて発見する力をもっていなかったように、自分をどうしていいか分ら・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・かがみにうつる自分の目を女は見つめて物狂おしい高笑いをした。そして右の手をツとふところに入れてまっしろなやわらかい胸の中ににぎって居たお女郎ぐもをはなした。 女は目をパッとひらいてまっさおな笑をもらして鏡の中の自分を見つめた。胸の中の御・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・それは、帝国主義の物狂おしい世界制覇の欲望に抗し、世界人民の平和と民族の独立を守らなければならないということです。 とくに、アジア大陸に向って、ひとつらなりの弓のようにはられている島国、日本の人民の運命は、世界平和の要求がたかまるにつれ・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・殿も、そのわきに他の女よりも強いかなしみにとらわれて物狂おしい様な紅の様子を、前からの事に引きくらべてよけいかあいそうにおもわれたのでなぐさめるつもりで、「気をしっかり持って御呉れ、紅、人の命がはかないものだと云う事、人間と云うものは弱・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫