・・・それを主人はちらと見て、『何を言っても命あっての物種だ、』と大きな声で独言を初めた、『どうせ自分から死ぬるてエなアよくよくだろうが死んじまえば命がねえからなア。』 この時クスリと一声、笑いを圧し殺すような気勢がしたが、主人はそれには・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・命あっての物種である。その生涯が満足な幸福な生涯ならば、むろん、長いほどよいのである。かつ大きな人格の光を千載にはなち、偉大なる事業の沢を万人にこうむらすにいたるには、長年月を要することが多いのは、いうまでもない。 伊能忠敬は、五十歳か・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 四 左は言え、私は決して長寿を嫌って、無用・無益とするのではない、命あっての物種である、其生涯が満足な幸福な生涯ならば、無論長い程可いのである、且つ大なる人格の光を千載に放ち、偉大なる事業の沢を万人に被らすに至るに・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・命あっての物種、というその命をじかに脅かされることであるから、生命保存のために、人々の全努力が、瞬間の命を守るたたかいに集注される。 絶え間なく戦争の危険がふりまかれ、人々の心に不安が巣くっていれば、戦争の恐怖がどういうものであるかを経・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
出典:青空文庫