・・・私は、どんなに、わがままでも、決して世間の物笑いになるようなことはしないのだし、つらくても、淋しくっても、だいじのところは、きちんと守って、そうしてお母さんと、この家とを、愛して愛して、愛しているのだから、お母さんも、私を絶対に信じて、ぼん・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・私の場合は、まさしく、馬子の衣裳というものである。物笑いのたねである。それ等のことに気がついた時には、私は恥ずかしさのあまりに、きりきり舞いをしたのである。しまった! と思った。やっぱり、欠席、とすべきであったのである。いやいや、出席でも欠・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・みに来るぞ、と思ったらしく、この推察は、のち、当の友人に聞いてたしかめ、そうで、それでも酒のんで遊んだそうだが、何だか不安で、愉快でなかった由にて、あれといい、これといい、その後ながいこと、友人たちの物笑いになっていた。その当の病気の友人さ・・・ 太宰治 「創生記」
・・・それがために後日できそこないの汽船をこしらえて恥をかくであろうことの厄運を免れた代わりに、将来下手な物理をこね回しては物笑いの種をまくべき運命がその時に確定してしまったわけである。しかし先生にその責任をもって行くわけでは毛頭ない。それどころ・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・「さあ、もうよさっせ、ええ物笑いだ」 勘助は、そういったきりだ。炉辺に坐りこみ、わが家にいるように、乱胸を片づけ出した。勇吉は、立ちはだかって、勘助を見ていたがやがて、「何でえ、何しくさるでえ」とつめよせて来た。「畜生!・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・今更、もう三月待てなんぞと云って見ろ……それこそ物笑いだ。工場管理者の御亭主……自分の女房にさえ統制が利かないって……」 然しそれは、ドミトリーの勝手な間違いであった。工場の仕事は計画によっている。インガは、この三月内に托児所を設けるこ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・あんな目立つ髪をしているのは誰だと物笑いになりますよ、いずれあなたのことだから、何かの絵でも御覧になったのでしょうが、おやめなさい。そういう意味のことを、こわい表情で凝っと目を据えていわれた。 一番自分に似合う髪をやっと見つけたと思った・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・ 彼は絶えずけちな情事ばかり追い廻していると云うので、皆の物笑いになっている独り者の男であった。羅紗を売るのを口実にして、よその細君のところへ入り込むことも有名だ。マリーナ・イワーノヴナは、彼がどんな女にでも惚れるのを馬鹿にしながら、憎・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫