・・・人のものを盗んで来て自分のものにちゃんと作り直す才能は、そのずるさは、これは私の唯一の特技だ。本当に、このずるさ、いんちきには厭になる。毎日毎日、失敗に失敗を重ねて、あか恥ばかりかいていたら、少しは重厚になるかも知れない。けれども、そのよう・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・これだけの特技があれば世界を胯にかけて食って行けるのだと感心した。これを見ておもしろがる人々はただ妙技に感心するだけではなくて、やはり影絵のもつ特殊の魅惑に心酔するのである。 これらの原始的の影法師と現在の有声映画には数世紀の隔たりがあ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・しっぽを支柱にしてあと足で長く立っていられるのもまたその特技であった。この「チビ」は最初の産褥でもろく死んでしまった。その後仙台へ行ってK君を訪問すると、そこにいた子猫がこれと全く生き写しなのでまた驚かされた。 今では「三毛」の孫に当た・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
出典:青空文庫