・・・肘と肘とをぶっつけ合い、互いに隣りの客を牽制し、負けず劣らず大声を挙げて、おういビイルを早く、おういビエルなどと東北訛りの者もあり、喧々囂々、やっと一ぱいのビイルにありつき、ほとんど無我夢中で飲み畢るや否や、ごめん、とも言わずに、次のお客の・・・ 太宰治 「禁酒の心」
・・・て、しかしながら人間の価値その財産に依って決定せらるべきものならば老生は只今、割腹し果申すべし、杉田老画伯の如きは孫の数人もありながら赤き襟飾など致して、へんに風態を若々しく装い、以て老生を常日頃より牽制せんとする意図極めてあらわに見え申候・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・それは外に注意を牽制すべき何物もないからである。それだからたとえ手近に動物園がある場合でも動物園の映画はそれ自身の独自な価値を主張し得るのである。ましてやアフリカ大陸の自然の棲所で撮った河馬の映画となれば猶更のことである。 ある製造工場・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・の原因は普通自分の利害と直接に結びついているのであるから、最大緊張の弛緩から来る涙の中から、もうすぐに現在の悲境に処する対策の分別が頭をもたげて来るから、せっかく出かけた涙とそれに伴なう快感とはすぐに牽制されてしまわなければならない。 ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・でない子がわざとなんだか落着かないような様子をして天井を仰いでみたり鼻をこすってみたりして牽制しようとするなどはきわめて初歩であるので、その裏をかくつもりで「狸」自身がわざとそのような振りをすることもある。これを仮に第二次の作戦とすると、そ・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・を思い出させることで、わたしの現在での活動や発言を牽制する効果を期待するとすれば、それは不可能である。 あの評論にふくまれている誤謬は、プロレタリア文学の戦線拡大に対する政治的態度の未熟さと、そこからひきおこされた文学に対するピューリタ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・その時、まして茂索氏やふさ夫人のような気質の人たちであったら、大したものでもない題材へ、夫婦が両側からとびつく姿をめいめいの心の中に描いただけでもうんざりするというところがあり、具体的には計らず互に牽制する結果となって才能をいつか凋ませ、み・・・ 宮本百合子 「夫婦が作家である場合」
・・・ そうして、彼は伊太利を征服し、西班牙を牽制し、エジプトへ突入し、オーストリアとデンマルクとスエーデンを侵略してフランスの皇帝の位についた。 この間、彼のこの異常な果断のために戦死したフランスの壮丁は、百七十万人を数えられた。国内に・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫