・・・その男の作った七夕の歌は、今でもこの国に残っていますが、あれを読んで御覧なさい。牽牛織女はあの中に見出す事は出来ません。あそこに歌われた恋人同士は飽くまでも彦星と棚機津女とです。彼等の枕に響いたのは、ちょうどこの国の川のように、清い天の川の・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・この夜は、牽牛星と織女星が、一年にいちどの逢う瀬をたのしむ夜だった筈ではないか。私は、子供の頃には、あの竹に色紙をつるしたお飾りも、牽牛織女のお二人に対してその夜のおよろこびを申し上げるしるしではなかろうかとさえ思っていたものである。牽牛織・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・その頃はまだ織女や牽牛は宵のうちにはかなりに東にあった。西の方の獅子宮には白く大きな木星が屋根越しに氷のような光を投げていた。 星座図にある「変光星」というのは何かという疑問も出た、私は簡単な説明をしてやってちょうど見えていた「織女」の・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
出典:青空文庫