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・・・造次何ぞ曾て復讎を忘れん 門に倚て媚を献ず是権謀 風雲帳裡無双の士 歌舞城中第一流 警柝声はむ寒かんちようの月 残燈影は冷やかなり峭楼の秋 十年剣を磨す徒爾に非ず 血家血髑髏を貫き得たり 犬飼現八弓を杖ついて胎内竇の中を行く・・・
内田魯庵
「八犬伝談余」
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・・・明治の聖代の今日だって、犬塚信乃だの犬飼現八だの、八郎御曹司為朝だの朝比奈三郎だの、白縫姫だの楠こまひめだののような人は、どうも見当りません。まして火の中へ隠れてしまう魔法を知って居る犬山道節だの、他人の愛情や勇力を受けついでくれる寧王女の・・・
幸田露伴
「馬琴の小説とその当時の実社会」