・・・女郎屋の亭主が名古屋くんだりから、電報で、片山津の戸を真夜中にあけさせた上に、お澄さんほどの女に、髪を結わせ、化粧をさせて、給仕につかせて、供をつれて船を漕がせて、湖の鷭を狙撃に撃って廻る。犬が三頭――三疋とも言わないで、姐さんが奴等の口う・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・ 最初、日本の兵士を客間に招待して紅茶の御馳走をしていた百姓が、今は、銃を持って森かげから同じ兵士を狙撃していた。 彼等の村は犬どもによって掠奪され、破壊されたのだ。 ウォルコフもその一人だった。 ウォルコフの村は、犬どもに・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・ 金曜日 総理大臣が乱暴な若者に狙撃された。それが金曜日であった。前にある首相が同じ駅で刺されたのが金曜日、その以前に某が殺されたのも金曜日であった。不思議な暗合であるというような話がもてはやされたようである。実際そ・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・授が半ばはその研究の資料を得るために半ばはこの自分を追跡する暗影を振り落とすためにアフリカに渡ってヘルワンの観測所の屋上で深夜にただ一人黄道光の観測をしていた際など、思いもかけぬ砂漠の暗やみから自分を狙撃せんとするもののあることを感知したそ・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・エリカは、舞台のうえにいていくたびか狙撃された。が、無事に千回以上の公演をつづけたが、一九三六年、解散させられた。チューリッヒで、「公安妨害」の口実で公演禁止されたのをはじめとして、ナチス外交官が出さきの外国でまでエリカの活動を妨害して、と・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ベット卿にめぐり会い、その偶然が二人を愛へ導いて結婚することになると、満十六歳の誕生日の祝いと一緒にそのことを知ったイレーネが悩乱して、婚礼の朝、朝露のこめている教会の樹立ちのかげから母の新しい良人を狙撃しようとする。しかし、その力も失せて・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・ 新聞を見せて呉れというと、わざと軍人テロリスト団が首相官邸へ乱入したところ、狙撃したところの書いてある部分だけを一枚よこした。そして、頻りに、「これは私の老婆心からだが、あなたなんぞもここで大いに将来を考える時だね、この様子じゃ、・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 王族広間の上のはてに往き着きたまいて、国々の公使、またはその夫人などこれを囲むとき、かねて高廊の上に控えたる狙撃連隊の楽人がひと声鳴らす鼓とともに「ポロネエズ」という舞はじまりぬ。こはただおのおの右手にあいての婦人の指をつまみて、この・・・ 森鴎外 「文づかい」
出典:青空文庫