・・・その隙間の分だけ飯を節約してあるわけだと、狡いやり方に感心した。バラックを出ると、一人の男があのカレー屋ははじめ露天だったが、しこたま儲けたのか二日の間にバラックを建ててしまった、われわれがバラックの家を建てるのには半年も掛るが、さすがは闇・・・ 織田作之助 「世相」
・・・そして画を検査してから、「售れないなら售れないで、原物を返してくれるべきに、狡いことをしては困る」というと、「飛んでもない、正しくこれは原物で」と廷珸はいい張る。「イヤ、そうは脱けさせない。自分は隠しじるしをして置いた、それが今何処にある。・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・しかし思いのほかに目鼻立の整った、そして怜悧だか気象が好いか何かは分らないが、ただ阿呆げてはいない、狡いか善良かどうかは分らないが、ただ無茶ではない、ということだけは読取れた。 少し気の毒なような感じがせぬではなかったが、これが少年でな・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・私に云うと止められるものだから、まるで狡いわ。ただ行って参りますって云うんですもの」 さほ子の声が次第に怪しく鼻にかかり、口先の慰撫が困難になって来ると、彼は、そろそろ自分の所業を後悔し出した。「いや全く、いくらはいはい云おうとも、・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・ 狡い、ひひという笑いかたで太い首をすくませた。「マァ、この懸け声がどの位実現されるか見ものだね」 留置場へ降りがけ、教習室をとおりぬけたら正面の黒板に、 不逞鮮人取締 憲兵隊との連携と大書してある。 い・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 而も、ブルジョア・地主は処女会や御用雑誌その他のあらゆる反動文化機関を総動員して、婦人大衆の文化を昔ながらの奴隷的な低さで止めておこうと狡い計略をめぐらしている。 何ぞというと「何だ! 女の癖に生意気な!」とやっつけ、封建的な屈従・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・その絶間なく小さい狡いことをされる顧客の大部分がまた過去に於てせくせく蓄めた金をもって引込んで来た人間の、現在中流的偏見に満ちて社会的地位や財産を蓄積しつつある者なのは面白い。天から見たら苦笑される鼬ごっこだ。大体、郊外の住宅地というものは・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・ みんな、ブルジョア・地主どもの仕かける狡い教育にだまされてそんな考えをもっていたのです。 労働者と農民がはっきりと、男も女も同じだけ働けばこの社会に暮らす権利は同じで、賃銀も当然同じでなければならないということを知って御覧なさい!・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・ 痛快なのは、ソヴェト同盟の生産拡張五ヵ年計画がはじまるまで、狡いことして儲けていた小成金や商人が、三十ルーブリの室なら九十ルーブリという風に、いつもキット三倍の税をかけられていたことだ。家賃が三倍になるばかりじゃない。電燈料もガス代も・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・その出し前について、いつも狡い計略をするのは祖父である。アクリーナ祖母さんは、再びレース編をやり出した。そして、ゴーリキイも「銭を稼ぎはじめた。」 休日毎に朝早くゴーリキイは袋をもって家々の中庭や通りを歩き、牛骨、襤褸、古釘などを拾いあ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫