・・・ ロイドめがねを真円に、運転手は生真面目で、「多分の料金をお支払いの上、お客様がですな、一人で買切っておいでになりましても、途中、その同乗を求むるものをたって謝絶いたしますと、独占的ブルジョアの横暴ででもありますかのように、階級意識・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・校長は女を独占したかったのだ。彼女は何をしても直ぐ口や手を洗う水臭い校長を、肉体的にも精神的にも愛することは出来ないと思ったが、くどくど説教されているうちに、さすがにただれ切った性生活から脱け出して、校長一人を頼りにして、真面目な生活にはい・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 近代資本主義は、自由競争から独占への傾向をたどってきた。各産業部門に於ける独占は、利潤を多くする。小資本は大資本に併合される。それから銀行と産業とが結びついて、金融資本が発生し、金融寡頭政治ができてくる。 資本家の間に於ける独占は・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・佐吉さんの兄さんとは私も逢ったことがあり、なかなか太っ腹の佳い方だし、佐吉さんは家中の愛を独占して居るくせに、それでも何かと不平が多い様で、家を飛出し、東京の私の下宿へ、にこにこ笑ってやって来た事もありました。さまざま駄々をこねて居たようで・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・人の子の愛慾独占の汚い地獄絵、はっきり不正の心ゆえ、きょうよりのち、私、一粒の真珠をもおろそかに与えず、豚さん、これは真珠だよ、石ころや屋根の瓦とは違うのだよ、と懇切ていねい、理解させずば止まぬ工合いの、けちな啓蒙、指導の態度、もとより苦し・・・ 太宰治 「創生記」
・・・離れは、庭に面した六畳間とそれに続く三畳間と、二間あって、その二間を先生がもっぱら独占して居られる。御家族の方たちは、みんな母屋のほうにいらっしゃって、私たちのために時たま、番茶や、かぼちゃの煮たのなどを持ち運んで来られる他は、めったに顔を・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・それで自分のここに書いたこの取り止めもない追憶が、さもさも自分だけで先生を独占していたかのように読者に見えるとすれば、それはおそらく他の多くの門下生の各自の偽らぬ心持ちを代表するものとして了解しゆるしてもらわれるべきだと思う。そういう同門下・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・薔薇の花でも何でも虫のためには必要なる栄養物質であるのを、人間が無用な娯楽のために独占しようとして虫をひねり潰すのは、虫から見ればかなり暴虐な事かもしれない。 ある日の昼食のあとで庭へ出て、いちばん毛虫の多くついた薔薇を見に行った。そし・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・高度に発達した資本主義国は、そのころ急速に資本の独占化にすすんで、いわゆる合理化の結果、どこでも慢性的な大衆失業にくるしんでいた。イギリスでマクドナルドの労働党が多数をしめて労働党内閣となったのも、生活を打開しようとする大衆の要望のあらわれ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・日本の封建性が旧勢力の利益のために最大限につかわれている。日本の独占資本家たちが、より強大な国際資本におんぶして大衆生活は二の次として生きのびる決心をしてから、それらの人々の近代化は急テンポにすすんだ。日本の港からあがって来た資本主義の独占・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
出典:青空文庫