・・・カルメンの中の独唱でも、管弦楽の進行の波頭が指揮者のふりかざした両腕から落ちかかるように独奏者のクローズアップに推移して同時にその歌を呼出すといったような呼吸の面白さは、実地では却って容易に味わわれないものである。こういう意味では音楽自身よ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・ 記憶が混雑して確かな事は言われないが、たぶんそういう種類の演奏会のどれかで私は始めてケーベルさんの顔を見、ケーベルさんのピアノの独奏を聞いたように思う。曲がどういう曲であったかそれも覚えていない。ただ覚えているのは、ケーベルさんが一曲・・・ 寺田寅彦 「二十四年前」
・・・ただ一種の楽器のあまり長い独奏は聴者の倦怠をきたしやすい。もっともピアノなどにはしばしば相当長い独奏曲があるにはあるが、これはしかし、見方によれば常にあまたの同時に響く音の並行であって、肉声ならばちょうど四部合唱のようなものを一つの器械を借・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
正月元日に巖本真理のヴァイオリン独奏の放送をきいた。そして、その力づよくて純潔な音色からつよい印象をうけた。シゲッティというヴァイオリンの名手が来朝したとき、もう地下活動をしていた小林多喜二がこっそりききに行って、ひどく感・・・ 宮本百合子 「手づくりながら」
出典:青空文庫