・・・ 大理石の卓子の上に肱をついて、献立を書いた茶色の紙を挾んである金具を独楽のように廻していた忠一が、「何平気さ、うんと仕込んどきゃ、あと水一杯ですむよ」 廻すのを止め、一ヵ所を指さした。「なあに」 覗いて見て、陽子は笑い・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・工場に働いている男女、会社員、職業婦人、学生、農家、商家それぞれの献立と、今たべたいものを統計して示している。甘いものと天ぷらが食べたいものの圧倒的多数を占めている事実も、私たちの実感に通じている。 この食べもの調査は相当こまかに分類も・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
・・・見るともなく見ていると、彼等は輝く禿と派手な帽子の頂とをつき合わせて睦じく献立を選んだ。一礼して去った給仕は、やがて、しゃれた脚立氷容器に三鞭酒の壜を冷し込んで運んで来た。私は、それを見ると、感じの鋭い小説家ででもありそうに自信をもって、二・・・ 宮本百合子 「三鞭酒」
・・・そして Mem タニが女性の適応性によって、キャパンの流行巴里料理を通じ熱心に one of them たろうとする時 Mr. タニは更に一層の熱をもってロンドン日本料理店献立表を報告した。 ヨーロッパ人の云うところの soyuや食える・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・子供のための献立、病人のための献立と分れている。工場からひけて来たソヴェト同盟のお神さん、連盟のお神さん連がつめかけて、重ね鍋に料理を買っている。別な食堂の入口から、二階の大食堂へ行くと、またなかなか洒落てる。夏は、風通しよいところで食べら・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・まま出発して来た人たちで、心身の疲労はいちじるしかったと、それも不幸の一つの原因としていわれているが、もしそれがそんなにはっきり誰の目にも映じているとしたら、新鮮だと断言出来ないような卵をきまった船の献立だからといって、形式的に食わせる不親・・・ 宮本百合子 「龍田丸の中毒事件」
・・・サラダが主なもので、あとは菓子、果物と珈琲位の献立てです。瓦斯が自由に使え、いつでも蛇口を廻せば熱湯が出る台処は、働くに着物を汚す場所でもなければ、心持の悪い処でもありません。一時間も準備にかかれば気持よい夕餐が出来ます。 それを、談笑・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・左側に献立を印刷し、右手に松と二羽の丹頂鶴の絵を出した封緘にこのたよりはかかれている。裏の航路図に、インクであらましの船位がしるしてある。 書簡註。一九二九年の一家総出のヨーロッパ旅行は、父の経済力にとって、又母の体力・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ ニューヨークの寄宿舎では豌豆がちの献立であったから腹がすいて困った。その時、デスクの上で何時かしらと眺めるのも、その時計であった。 ところが、二年ばかりすると、動かなくなってしまった。ウォルサムの機械の寿命がそんな短いわけはない。・・・ 宮本百合子 「時計」
出典:青空文庫