・・・彼は独創的な研究によって人間の眼は獣類の眼と入れ替える事が容易で、且つ獣類の中でも豚の眼と兎の眼が最も人間の眼に近似している事を実験的に証明した。彼は或る盲目の女に此の破天荒の手術を試みたのである。接眼の材料は豚の目では語呂が悪いから兎の目・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・トナカイが死地に陥って敢然たる攻勢を取り近寄る犬どもを踏みつぶそうとする光景は獣類とはいえ悲壮である。いかなる名優の活劇でも、これに比べてはおそらく茶番のようなものである。それからの後の場面で荒涼たる大雪原を渡ってくるトナカイの大群の実写は・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・昔の攘夷論者は西洋人を獣類の一種と思っていた。今の米国人の中にでも黒人は人間と思っていない仲間があることはリンチの事実が証明する。 北氷洋の白熊は結局、カメラも鉄砲も繩も鎖もウインチも長靴も持っていなかったために殺され生け捕られたに過ぎ・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・物を言わない獣類と人間との間に起こりうる情緒の反応の機微なのに再び驚かされた。そうしていつのまにかこの二匹の猫は私の目の前に立派に人格化されて、私の家族の一部としての存在を認められるようになってしまった。 二匹というのは雌の「三毛」と雄・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・不毛の地に最初の草の種が芽を出すと、それが昆虫を呼び、昆虫が鳥を呼び、その鳥の糞粒が新しい植物の種子を輸入する、そこにいろいろの獣類が移住を始めて次第に一つの「社会」が現出する。日本における植物界の多様性はまたその包蔵する動物界の豊富の可能・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・というものが色々あった、例えばある二、三の鳥類、それから獣類の心臓、反芻類の第一胃、それから魚類ではかながしらなどがいけないものに数えられている外に、豆がいけないことになっている、この「豆」というのが英語ではビーンと訳してあるのだが、しかし・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
出典:青空文庫