・・・もう一つの説によると、「玉虫色の小さな馬に乗って、猩々緋のようなものの着物を着て、金の瓔珞をいただいた」女が空中から襲って来て「妖女はその馬の前足をあげて被害の馬の口に当ててあと足を耳からたてがみにかけて踏みつける、つまり馬面にひしと組みつ・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・青貝の螺鈿の小箱、口紅のかすかにのこる舞扇、紫ふくさ――私は只夢の中の語語りを見てるように――きくように青貝の光りにさそい出される涙、口紅のあとに思い出すあの玉虫色の唇。 お妙ちゃん――雛勇はん――斯のどっちからよんでも何となくしおらし・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・京の舞子の紅の振、玉虫色の紅の思われる写真は白粉の香のただよいそうに一っぱいちらばって壁に豊まろの女、豊国の女房はそのなめらかな線を思いきりあらわしていっぱいはってある。すすけた天井からは、浅草提灯が二つ、新橋何とかとそめぬいた水色の手拭ま・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫