・・・思想家としてのマルクスの功績は、マルクス同様資本王国の建設に成る大学でも卒業した階級の人々が翫味して自分たちの立場に対して観念の眼を閉じるためであるという点において最も著しいものだ。第四階級者はかかるものの存在なしにでも進むところに進んで行・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・そして「クロポトキン、マルクスたちのおもな功績はどこにあるかといえば……第四階級以外の階級者に対して、ある観念と覚悟とを与えた点にある……資本王国の大学でも卒業した階級の人々が翫味して自分たちの立場に対して観念の眼を閉じるためであるという点・・・ 有島武郎 「片信」
・・・縦令この地域は狭隘であり磽であっても厳として独立した一つの王国であった。椿岳は実にこの椿岳国という新らしい王国の主人であった。 この椿岳国の第一の名産たる画はどんな作である乎、先年の椿岳展覧会は一部の好事家間に計画されたので、平生相知る・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・クロムウェルがアングロサクソン民族の王国を造ったことは大事業でありますけれども、クロムウェルがあの時代に立って自分の独立思想を実行し、神によってあの勇壮なる生涯を送ったという、あのクロムウェル彼自身の生涯というものは、これはクロムウェルの事・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・が在来のものと同じでいいだろうか、新時代の光を浴びようとしつつある、また浴びなければならないそれらの子供に対し、労働者に対し、少女に対して与えるものは、今迄のそれでいいだろうか、今日の詩人はもっと詩の王国が移動したことに対して覚醒しなければ・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・ 現実の上に、真美の王国を築くことのできないものはこれを常に心の上で築くことである。芸術は、即ち、その表現である。恍洋たるロマンチシズムの世界には、何人も、強制を布くことを許さぬ。こゝでは、自由と美と正義が凱歌を奏している。我等は、文芸・・・ 小川未明 「自由なる空想」
・・・KLEIST チリー王国の首府サンチャゴに、千六百四十七年の大地震将に起らんとするおり、囹圄の柱に倚りて立てる一少年あり。名をゼロニモ・ルジエラと云いて、西班牙の産なるが、今や此世に望を絶ちて自ら縊れなんとす。 いかがです。この裂帛・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・一本の筆と一帖の紙を与えられたら、作家はそこに王国を創る事が出来るではないか。君は、自身の影におびえているのです。君は、ありもしない圧迫を仮想して、やたらに七転八倒しているだけです。滑稽な姿であります。書きたいけれども書けなくなったというの・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・辻音楽師には、辻音楽師の王国が在るのだ。私は、兵隊さんの書いたいくつかの小説を読んで、いけないと思った。その原稿に対しての、私の期待が大きすぎるのかも知れないが、私は戦線に、私たち丙種のものには、それこそ逆立ちしたって思いつかない全然新らし・・・ 太宰治 「鴎」
・・・即ち一つの王国をもって之を支配し、神と同じく召使たちをもっている。悪鬼どもが彼の手下である。その国が何処にあるかは明瞭でない。天と地との中間のようでもあり、天の処という場所か、または、地の底らしくもある。とにかく彼は此の地上を支配し、出来る・・・ 太宰治 「誰」
出典:青空文庫