・・・階の上には一人の王様が、まっ黒な袍に金の冠をかぶって、いかめしくあたりを睨んでいます。これは兼ねて噂に聞いた、閻魔大王に違いありません。杜子春はどうなることかと思いながら、恐る恐るそこへ跪いていました。「こら、その方は何の為に、峨眉山の・・・ 芥川竜之介 「杜子春」
・・・「よろしい。まず君から引き給え。」「九。」「王様。」 私は勝ち誇った声を挙げながら、まっ蒼になった相手の眼の前へ、引き当てた札を出して見せました。すると不思議にもその骨牌の王様が、まるで魂がはいったように、冠をかぶった頭を擡・・・ 芥川竜之介 「魔術」
・・・なんでも御壻になる人は、黒ん坊の王様だと云うじゃないか?第二の農夫 しかし王女はあの王様が大嫌いだと云う噂だぜ。第一の農夫 嫌いなればお止しなされば好いのに。主人 ところがその黒ん坊の王様は、三つの宝ものを持っている。第一が千里・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・この子を助けようと思ったら何せ一心に天理王様に頼まっしゃれ。な。合点か。人間業では及ばぬ事じゃでな」 笠井はそういってしたり顔をした。仁右衛門の妻は泣きながら手を合せた。 赤坊は続けさまに血を下した。そして小屋の中が真暗になった日の・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・たいへんやさしい王子であったのが、まだ年のわかいうちに病気でなくなられたので、王様と皇后がたいそう悲しまれて青銅の上に金の延べ板をかぶせてその立像を造り記念のために町の目ぬきの所にそれをお立てになったのでした。 燕はこのわかいりりしい王・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・おとよさん省さん、さあさあ蛇王様へ詣ってきましょう」 三人はばたばた外へ出る。池の北側の小路を渚について七、八町廻れば養安寺村である。追いつ追われつ、草花を採ったり小石を拾って投げたり、蛇がいたと言っては三人がしがみ合ったりして、池の岸・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・そう、そう、私共のス、あの宝石の光り輝く市の王様の、たった一人娘のスを! けれども、其那工合には行きません。それは出来ないことでした。真個にそれ等の事も出来ないと云うのではありませんが、スは、水の世界パタルプールの宮殿へ生れないで、バニカン・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・これは、島の王様のA氏が、私の知らぬまに、こっそり写して、そうしてこんなに大きく引伸しをして私に送って下さったものです。A氏は、島一ばんの長者で、そうして詩など作って、謂わば島の王様のようにゆったりと暮している人で、この旅行も、そのA氏の招・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・「王様は、人を殺します。」「なぜ殺すのだ。」「悪心を抱いている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」「たくさんの人を殺したのか。」「はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、御自身のお世嗣を。それから・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・この男が、どういうわけか、勝治を傍にひきつけて離さない。王様が黒人の力士を養って、退屈な時のなぐさみものにしているような図と甚だ似ていた。「チルチルは、ピタゴラスの定理って奴を知ってるかい。」「知りません。」勝治は、少ししょげる。・・・ 太宰治 「花火」
出典:青空文庫