・・・思想家としてのマルクスの功績は、マルクス同様資本王国の建設に成る大学でも卒業した階級の人々が翫味して自分たちの立場に対して観念の眼を閉じるためであるという点において最も著しいものだ。第四階級者はかかるものの存在なしにでも進むところに進んで行・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・そして「クロポトキン、マルクスたちのおもな功績はどこにあるかといえば……第四階級以外の階級者に対して、ある観念と覚悟とを与えた点にある……資本王国の大学でも卒業した階級の人々が翫味して自分たちの立場に対して観念の眼を閉じるためであるという点・・・ 有島武郎 「片信」
・・・机上に置いて玩味し、黙読し考うるのは、むしろ書物そのものが持つ特性でありましょう。私などどうしても、書物を読んで、それから得た知識でなければ、真に身にならない気がします。一つは雑誌であると、百貨店へ行ったように他へ気が散るからであります。・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・かような指導書を見出したときには、これをくりかえし、幾度となく熟読し、玩味し、その解答を検討すべきである。手垢に汚れ、ページがほどけるほど首引きするのこそ指導書である。 広く読書することも必要であるが、指導書を精読することは一層大切であ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・まことにこの利休居士、豊太閤に仕えてはじめて草畧の茶を開き、この時よりして茶道大いに本朝に行われ、名門豪戸競うて之を玩味し給うとは雖も、その趣旨たるや、みだりに重宝珍器を羅列して豪奢を誇るの顰に傚わず、閑雅の草庵に席を設けて巧みに新古精粗の・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・こういう本格的な研究仕事を手伝わされたことがどんなに仕合せであったかということを、本当に十分に估価し玩味するためにはその後の三十年の体験が必要であったのである。 たしか三年の冬休みに修善寺へ行ってレーリーの『音響』を読んだ。湯に入り過ぎ・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・そういう人たちが、もし途上の一輪の草花を採って子細にその花冠の中に隠された生命の驚異を玩味するだけの心の余裕があったら、おそらく彼らはその場から踵を返して再び人の世に帰って来るのではないかという気もするのである。 二 盆踊り・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・少なくもアインシュタイン以前の力学や電気学における基礎的概念の発展沿革の骨子を歴史的に追跡し玩味した後にまず特別相対性理論に耳を傾けるならば、その人の頭がはなはだしく先入中毒にかかっていない限り、この原理の根本仮定の余儀なさあるいはむしろ無・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・それはとにかく、現代に活動している人でもこの一段の内容を適当に玩味することが出来れば名利の誘惑に逢って身を亡ぼすような災難を免れるだけの護符を授かるであろうと思われる。第百三十段もこれに聯関している。 名利観に限らず、この著者は色々な点・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・初五が短いためにそのあとでちょっとした休止の気味があって内省と玩味の余裕を与え、次に来るものへの予想を発酵させるだけの猶予を可能にする。中七は初五で提出された問題の発展であり解答であるので長さを要求する。最後の五は結尾であって、しかもそのあ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
出典:青空文庫