・・・その声の艶に媚かしいのを、神官は怪んだが、やがて三人とも仮装を脱いで、裸にして縷無き雪の膚を顕すのを見ると、いずれも、……血色うつくしき、肌理細かなる婦人である。「銭ではないよ、みんな裸になれば一反ずつ遣る。」 価を問われた時、杢若・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・知らず、幼年の時より他人の家に養われて衣食は勿論、学校教育の事に至るまでも、一切万事養家の世話に預り、年漸く長じて家の娘と結婚、養父母は先ず是れにて安心と思いの外、この養子が羽翼既に成りて社会に頭角を顕すと同時に、漸く養家の窮窟なるを厭うて・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・、又は妾より成揚り芸妓より出世して立派に一家の夫人たる者もあり、都て是等は人間以外の醜物にして、固より淑女貴婦人の共に伍を為す可き者に非ず、賤しみても尚お余りある者なれども、其これを賤しむの意を外面に顕すは婦人の事に非ず。我は清し、汝は濁る・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・フランクに行くな、と云って呉れないのか、 行かせたなら、どうして、もう少し寛大に、自分の娯んで来たことを悦んで呉れないのか、 其為に、行って来ても、受けた十の悦びを、一にも半分にも減して表情に顕す自分を自覚し、私は我ながらぞっとした・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫