・・・日光は今朝はかゞやく琥珀の波です。「まあ、あなたの美しいこと。後光は昨日の五倍も大きくなってるわ。」「ほんたうに眼もさめるやうなのよ。あの梨の木まであなたの光が行ってますわ。」「えゝ、それはさうよ。だってつまらないわ。誰もまだあ・・・ 宮沢賢治 「まなづるとダァリヤ」
・・・フランクリンの凧の逸話は人口に膾炙しているが、一七五二年の九月の暴風雨のその一夜にいたる迄には、ギリシャ人たちが琥珀の玉をこすっては、軽いものを吸いつけさせて遊んでいた時代から二千年もの人類の歴史がつみ重ねられて来ている。電気――エレキへの・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 例の寝台の脚の処に、二十二三の櫛巻の女が、半襟の掛かった銘撰の半纏を着て、絹のはでな前掛を胸高に締めて、右の手を畳に衝いて、体を斜にして据わっていた。 琥珀色を帯びた円い顔の、目の縁が薄赤い。その目でちょいと花房を見て、直ぐに下を・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・ この時只一人坂道を登って来て、七人の娘の背後に立っている娘がある。 第八の娘である。 背は七人の娘より高い。十四五になっているのであろう。 黄金色の髪を黒いリボンで結んでいる。 琥珀のような顔から、サントオレアの花のよ・・・ 森鴎外 「杯」
・・・肌に琥珀色の沢があって、筋肉が締まっている。石田は精悍な奴だと思った。 しかし困る事には、いつも茶の竪縞の単物を着ているが、膝の処には二所ばかりつぎが当っている。それで給仕をする。汗臭い。「着物はそれしか無いのか。」「ありまっせ・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫