・・・桃色珊瑚ででも彫刻したようで、しかもそれよりももっと潤沢と生気のある多肉性の花弁、その中に王冠の形をした環状の台座のようなものがあり、周囲には純白で波形に屈曲した雄蕊が乱立している。およそ最も高貴な蘭科植物の花などよりも更に遥かに高貴な相貌・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・ 週期的ではないが、リーゼガング現象といくぶん類似の点のあるのは、モチの木の葉の面に線香か炭火の一角を当てるときにできる黒色の環状紋である。これについては現に理化学研究所平田理学士によって若干の実験的研究が進行しているが、これもやはり広・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・「あのいちばん下の脚もとに小さな環が見えるでしょう、環状星雲ですよ。あの光の環ね、あれを受け取ってください。僕のまごころです」「ええ。ありがとう、いただきますわ」「ワッハッハ。大笑いだ。うまくやってやがるぜ」 突然向こうのま・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・それから環状星雲というのもあります。魚の口の形ですから魚口星雲とも云いますね。そんなのが今の空にも沢山あるんです。」「まあ、あたしいつか見たいわ。魚の口の形の星だなんてまあどんなに立派でしょう。」「それは立派ですよ。僕水沢の天文台で・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・我々はモスクワ市の環状ブルワールを見つけたい。 一本はこれである。クレムリンを中心に一寸がたついたコムパスで大きく描いた円みたいな環状線。これは外の並木通りで、絞りをずっと縮めてゆくともう一本やっぱりクレムリンを遠巻きにして円く――そう・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
托児所からはじまる モスクはクレムリとモスク河とをかこんで環状にひろがった都会だ。 内側の並木道と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照明燈みたいな※と円い・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
出典:青空文庫