・・・生意気にもかかわらず、親雀がスーッと来て叱るような顔をすると、喧嘩の嘴も、生意気な羽も、忽ちぐにゃぐにゃになって、チイチイ、赤坊声で甘ったれて、餌を頂戴と、口を張開いて胸毛をふわふわとして待構える。チチッ、チチッ、一人でお食べなと言っても肯・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・この男は、意識しないで僕に甘ったれ、僕のたいこもちを勤めていたのではないだろうか。「あなたも子供ではないのだから、莫迦なことはよい加減によさないか。僕だって、この家をただ遊ばせて置いてあるのじゃないよ。地代だって先月からまた少しあがった・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・この甘ったれ根性め。ぼくはこの手紙をかいたぼくを余り好きません。あなたはどうですか? 僕の少年時の貧しき自慢に、これをつけ加えて下さい。ぼくは少年時十三四頃、絵が大変、下手でしたが、帝展の深沢省三氏が好いてくれまして、美術に入れとすすめたり・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・三十四歳にもなって、なんだい、心やさしい修治さんか。甘ったれた芝居はやめろ。いまさら孝行息子でもあるまい。わがまま勝手の検束をやらかしてさ。よせやいだ。泣いたらウソだ。涙はウソだ、と心の中で言いながら懐手して部屋をぐるぐる歩きまわっているの・・・ 太宰治 「故郷」
・・・それに、あの、甘ったれた、女の描写。わあと叫んで、そこらをくるくると走り狂いたいほど、恥ずかしい。下手くそなのだ。私には、まるで作家の資格が無いのだ。無智なのだ。私には、深い思索が何も無い。ひらめく直感が何も無い。十九世紀の、巴里の文人たち・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・そんな甘ったれた考えを持っていたんじゃあ、僕はここで予言してもいい。君は、あの女に、裏切られる。必ず、裏切られる。いや、あの女ひとりに就いて言っているんじゃない。あのひとの個人的な事情なんか僕は、何も知らない。僕はただ、動物学のほうから女類・・・ 太宰治 「女類」
・・・んど無名にして、創作余談とでもいったものどころか、創作それ自体をさえ見失いかけ、追いかけ、思案し、背中むけ、あるいは起き直り、読書、たちまち憤激、巷を彷徨、歩きながら詩一篇などの、どうにもお話にならぬ甘ったれた文学書生の状態ゆえ、創作余談、・・・ 太宰治 「創作余談」
・・・ふられても恰好がつくなんてのは、てんからひとに甘ったれている証拠らしいが、――ま、落ちつく」 馬場がそう言ったのを私は忘れない。そのくせ、私を佐野次郎なぞと呼びはじめたのは、たしかに馬場なのである。私は馬場と上野公園内の甘酒屋で知り合っ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・なんという甘ったれた精神であろう。私はこの犬の鉄面皮には、ひそかに呆れ、これを軽蔑さえしたのである。長ずるに及んで、いよいよこの犬の無能が暴露された。だいいち、形がよくない。幼少のころには、も少し形の均斉もとれていて、あるいは優れた血が雑っ・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・ いったい志賀直哉というひとの作品は、厳しいとか、何とか言われているようだが、それは嘘で、アマイ家庭生活、主人公の柄でもなく甘ったれた我儘、要するに、その容易で、楽しそうな生活が魅力になっているらしい。成金に過ぎないようだけれども、とに・・・ 太宰治 「如是我聞」
出典:青空文庫