・・・それも蓼食う虫が好いて、ひょんなまちがいからお前に惚れたとか言うのなら、まだしも、れいの美人投票で、あんたを一等にしてやるからというお前の甘言に、うかうか乗ってしまったのだ……と、判った時は、おれは随分口惜しかった。情けなかった。 あと・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・リジナリティに対する賛美に似たあるものと、もう一つには、その独創的計画をどこまでも遂行しようという耐久力の強さ、しかも病弱の体躯を寒い上空の風雨にさらし、おまけに渦巻く煤煙の余波にむせびながら、飢渇や甘言の誘惑と戦っておしまいまで決意を翻さ・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・しかし孤独な生活に苦しみ愛情に飢えている若い娘はうす気味悪く思った自然の気持ちをまぎらされて甘言にひっかかります。 今日の新聞を見ると、昭和十二年から十六年十二月七日までの言論界に於ける戦争責任追究の記事があります。今日東京裁判その他で・・・ 宮本百合子 「本当の愛嬌ということ」
出典:青空文庫