・・・ 年とった人なんかは、「まかないものが生えるなんて、それでさえ一寸妙だのに…… それに違いないきっと魔がさしたんだ」なんかと云ってその日は常よりも読経の時を長くし御線香も倍ほどあげたりして居た。 夜から私達は庭に出る度に・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・雪の降りよう、作物の育ちよう、そこに生える雑草や虫の生活を眺めることは、そこで暮している人々の生活にある様々の風俗・習慣等の観察からのびて行った目なのである。 小説家としての藤村は明治三十八年脱稿された「破戒」によって、立派な出発をした・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ 日本の新しい歴史教科書『国のあゆみ』がその精神において低劣なのは、あの本のどこにも日本人民のエネルギーの消長が語られていず、まるで秋雨のあと林にきのこが生える、というように日本の社会的推移をのべている点である。毛穴のない人工皮膚のよう・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・なぜなら、闇屋は最近の日本の破滅的な生産と経済と官僚主義の間から生えたきのこであり、谷崎、荷風はそんなきのこの生える前からそこに立っていた資本主義社会の発生物であったのだから。 しかし作家の生きてゆく社会的感覚と作品の生きてゆき方――作・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・―― このような豊富で脂濃い生活の獣的な屑を貫いて、「猶新鮮で健康な創造的なものがやっぱり勝を制して芽生えること、明るい人間的な生活に対する我等の再生に対する破壊し難い希望を呼び醒しつつ、善きもの――人間的なものが生い立つ」ロシア民衆の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・正義派で、その生涯では大した金も残さず、しかもその僅かの財産も、没後は後継の人の非生産的な生活や、いろいろな家族内の紛糾のために何も無くなって、母は晩年、自分の少女時代の思い出のある土地の上に、雑草の生えるのを見て亡くなりました。 結婚・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
・・・従ってそういう庭は、杉苔の生えるにまかせておけば自然にできあがってくる道理である。臨川寺の庭などは、杉苔の生えている土地の土を運んで来て、それを種のようにして一面にふりまいておいただけなのである。しかしその結果として一面に杉苔が生い育ち、む・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫