出典:青空文庫
・・・日本にのこっている封建的感情は、ハイ・ボールの一杯機嫌で気焔をあげるにしても、すぐ生殺与奪の権をほしいままに握った気分になるところが、いかにもおそろしいことである。この種の人々は、どこの国の言葉が喋れるにしろ、それは常に人間の言葉でなければ・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・昔の封建時代は殿様が絶対的の権力をもっておりましたから、自分の臣下に対して生殺与奪の権があった。生かそうと殺そうと殿様のお気儘という状態なのです。ですからちょっと気に入らなければ、お小姓が茶碗を割ったといって首を斬られますし、お菊みたいにお・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・長い長い封建の時代、命さえも自分に属するものではなく、武士は家禄によって領主に生殺与奪の権をもたれていたし、人民百姓は、手討ちという制度の下におかれていた。森鴎外の「阿部一族」の悲劇が、殉死のいきさつをめぐっての武士間の生存闘争であることに・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・無限の悲哀を誘うこの現実と、生殺与奪の権利をもった男たち、その父、その良人、その息子からさえ監視されて、貞節に過さなければならなかった女の生涯を眺め合わせたとき、私たちは心から慄然とする。女とはどういう生きものと思われて来たのであったろうか・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・ルネッサンス時代の若い貴女デスデモーナは、お父様、わたくしはあの方と結婚しとうございます、というところまで自主的になっているけれども、その夫婦としての愛のなかでは、やっぱり歴然と、絶対の権力、生殺与奪の力をふるうものとしての良人しかみていな・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」