・・・大抵のイズムはこの点において、実生活上の行為を直接に支配するために作られたる指南車というよりは、吾人の知識欲を充たすための統一函である。文章ではなくって字引である。 同時に多くのイズムは、零砕の類例が、比較的緻密な頭脳に濾過されて凝結し・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
文化の発展には民族というものが基礎とならねばならぬ。民族的統一を形成するものは風俗慣習等種々なる生活様式を挙げることができるであろうが、言語というものがその最大な要素でなければならない。故に優秀な民族は優秀な言語を有つ。ギリシャ語は哲・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・かくてこそ書物の著者は、正に読者の生活に「活き得た」のではないか。その各の人の装幀の価値に応じて、より浅く、またより深く、より自己に近く、また自己に遠く。 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・一歩一歩の足の痛みと、「今日からの生活の悩み」が、毒蛇をつッついたのだ。「おい、今んになって、口先で胡魔化そう、ったって駄目だよ。剥製の獣じゃあるめえし、傷口に、ただの綿だけ押し込んどいて、それで傷が癒りゃ、医者なんぞ食い上げだ! いい・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・これを支えんとして求むる所の銭の高は、正しく生活の需用に適して余りなきものか。あるいは千円の歳入を六百円に減じ、質素に家を支えて兼ねて余暇を取り、子を教うるの機会はなきや。この機会を得んとしてかつて試みたることありや。甚だ疑うべし。 ま・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・の二字を理想として、俯仰天地に愧じざる生活をしたいという考えを有っていた。この「正直」なる思想は露文学から養われた点もあるが、もっと大関係のあるのは、私が受けた儒教の感化である。話は少し以前に遡るが、私は帝国主義の感化を受けたと同時に、儒教・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・こう云う文士はぜひとも上流社会と同じような物質的生活をしようとしている。そしてその目的を遂げるために、財界の老錬家のような辣腕を揮って、巧みに自家の資産と芸能との遣繰をしている。昔は文士を bohm だなんと云ったものだが、今の流行にはもう・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・そして遠い遠い所にまだ夢にも知らぬ不思議の生活があって、限無き意味を持っている形式に現われているのが、鐘の音で知らされているような。(ほとんど突然と音楽の声止や、音楽が止んだ。己の心を深く動かした音楽が、神と人との間の不思議を聞せるような音・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ 彼と春岳との関係と彼が生活の大体とは『春岳自記』の文に詳なり。その文に曰く橘曙覧の家にいたる詞おのれにまさりて物しれる人は高き賤きを選ばず常に逢見て事尋ねとひ、あるは物語を聞まほしくおもふを、けふは此頃にはめづらし・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ さて只今のご論旨ではビジテリアンたるものすべからく無菌の水と岩石ぐらいを喰べて海抜二千尺以上ぐらいの高い処に生活すべしというのでありましたが、なるほど私共の中には一酸化炭素と水とから砂糖を合成する事をしきりに研究している人もあります。・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫