・・・純真ということを、大人の一生懸命さにひきつけて意味づけたり、無心さを、いじらしさと溶けあわさせたりして、大人の感傷に作家が我知らずこびるとき、子供の世界の最も生粋な陽なたくさくて、心持のいい颯爽さは消えて、そこに子役が登場して来る。 現・・・ 宮本百合子 「子供の世界」
・・・ゆたかな声量と生粋のソヴェト人の歌好きのこころで「前線通信員」の活気横溢する歌をうたう、ゴルバートフ。一九一七年以後に成長して、社会主義建設の中で青年となった新しい気質のソヴェト作家が、あらゆる人々とともにナチスに侵略された自分たちの建設祖・・・ 宮本百合子 「ゴルバートフ「降伏なき民」」
・・・ 主人公は、作者の故郷である Burgundy の村民で、生粋の職人である。 自然のあらゆる美を愛し、酒を愛し仕事をしんから悦ぶ彼は、自分の哲学を持って生の隅から隅までを愛する男である。彼は失望や倦怠と云う事を知らない。どんな苦痛や・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
生粋の芸術的な作品が私たちに与える深い精神の慰安はどこから来るものなのだろうか。芸術作品の底からさして来る真の明るさというようなものは極めて複雑な光りであって、浅い形で云われる筋の楽天性だの、作家の気質ののびやかさなどにだ・・・ 宮本百合子 「作品のよろこび」
・・・どうかあなたがたが生粋の女性であることに自信をもって自然に動き、自然に発言し、自然が聰明であるように考えぶかくあって下さい。女は女以外のものではあり得ません。 女らしさについて、そういう理解をもつことこそ、明日の男らしさ、頼もしい雄々し・・・ 宮本百合子 「自然に学べ」
・・・ロシアの女優にとって生粋にロシア女であるラネフスカヤを演じることは自然だ。自然に生活の中にあるが儘に演出することがチェホフの劇作の力点であった。――ラネフスカヤは成功した。 ロパーヒンの成功も私は同じ理由だと思う。彼はラネフスカヤと玉突・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・この現実のうちに、かぎりない未来の達成と今日の未完成とがあり、文学の生粋なモティーヴがある。そこに作家が生きている社会は、過去のどんな社会の模倣でもないとき、作家がどうして、旧いもの、おくれたもの、足の萎えたる文化の模倣をしなければならない・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・魯迅によって切りひらかれた近代中国の優秀な文学は、そうした意味で、生粋の人民の文学の要素をもっている。 アメリカの文学は、ブルジョア民主社会内の個性と理性とが発展し得る道行きの様々な経過と摩擦とを鋭く反映している。その意味で、世界的性格・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ いかにも南フランスの農民出らしい頑丈な、陽気な、そして幾らかホラ吹きな父ベルナールと、生粋のパリッ子で実際的な活動家で情がふかいと同時に小言も多い若い母との間に、三人の子があったが、その総領として「よく太った、下膨れの顔の、冬になると・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・当時のしきたりは、生粋の上流人であるフロレンスの感情の秩序にもしみこんでいるのであるから、彼女にとって恋愛の心は結婚の門に通じている一本道の上だけで自身に向って承認されるものである。当時の日記にはフロレンスの苦しい心持がまざまざとのこされて・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
出典:青空文庫